楽天ファンが集う薬店がある。楽天生命パークから徒歩15分ほど。仙台市・若林区内にある「ヘルスケアアリマ」。店を構えて38年。チェーン店のドラッグストアのようなものとは異なり、漢方や栄養食品を売る昔ながらのお店だ。

店先には薬店らしからぬメッセージボードが掲げてある。「慶三さんのタイムリーにホッとした」「守備も打撃も辰己さん」「Good Job 浅村さん」。違った言葉で、楽天の選手たちを激励。店主の吉岡和男さん(67)が、気持ちを込めながら書いている。

元々は健康情報などを書いていたボード。楽天が球団史上初のリーグ優勝と日本一を成し遂げた13年の夏。楽天についてふと思ったことを文字で書いてみたことがきっかけだった。軽い気持ちで毎日エール。日本一を達成した翌週には「もういいかなと思った」と、ボードをいつもの健康ネタに戻した。お店を開けると、常連ではないサラリーマン男性が入ってきた。

「『なにやってるの。こんなのどこにでも書いてあるから野球のこと書いてよ』って言われてエッと思ったら、10秒も20秒もしないうちに『すみませんけど楽天のこと書いてくれませんか…』っていう人が来て。続いて女の人がモジモジと入ってきて。こういうお店だから体調不良かなと思ったら『私、通勤経路じゃないんだけど、これ(応援ボード)が見たくてここ通っているんです』と」

まさかの“苦情”が3件続いた。急きょ内容を楽天に書き換え、再掲示。吉岡さんは当時の思い出を豪快に笑う。「それ以来ずっとですよ」。思わぬ反響だった。

定休日の日曜と祝日以外は毎日休みなく続けている。吉岡さんは当時ガラケー。ただ、書いて、掲示。それだけだったが、徐々に街の人たちを引きつけていった。19年春からは、知人に勧められてTwitterを始めた。書いたボードを画像でアップするシンプルなスタイル。フォロワーは7月6日時点で1690人にも上る。いつからかTwitterで見たファンたちが遊びにくるように。吉岡さんは笑顔で迎え入れる。

思い思いにボードに言葉を書いてもらったり、楽天について語りあったり、雑談をしたり。選手のファンアートを持ってきてくれる人もいる。遊びに来てくれた人とは一緒にボードの前で記念撮影。そのすべてをアルバムに入れて保存している。「この人は多賀城」「この人は仙台」「この人は大阪から。去年は9回も仙台に来たんだよ」「この人は弘前。昨日、弘前の試合に行ったみたい」。1枚1枚写真をめくりながら、すらすらと写真に写る人たちについて説明してくれた。今は8月の仙台七夕まつりへ向けて、野球ボールの形をした吹き流しを製作中。来てくれたファンの願い事が書き込まれている。

憩いの場となったお店。近くには小学校や高校がある。通りがかる子どもたちにも見られることを意識し、言葉遣いや内容には細心の注意を払いながらボードをしたためる。「毎日大変だよ。楽天が負けると書くことを見つけるのも。なんとか絞り出してね」と頭を書いたが、表情は朗らかでうれしそうだった。ポジティブに、温かく。そんなメッセージが、今日も仙台の街角に掲げられている。【楽天担当=湯本勝大】

毎日楽天の応援メッセージが掲げてある「ヘルスケアアリマ」の店先(撮影・湯本勝大)
毎日楽天の応援メッセージが掲げてある「ヘルスケアアリマ」の店先(撮影・湯本勝大)
楽天ファンが集う薬店「ヘルスケアアリマ」で作られている吹き流し
楽天ファンが集う薬店「ヘルスケアアリマ」で作られている吹き流し
楽天ファンが集う薬店「ヘルスケアアリマ」
楽天ファンが集う薬店「ヘルスケアアリマ」