俳人の種田山頭火は、放浪の旅に出る前、山口・防府で酒造りをしていたという。日本酒をこよなく愛したルーツであり、定型にとらわれず「自由律俳句」をうたう一助となっていたことは、容易に想像できる。酒蔵を引き継いだ金光酒造は、今も「山頭火」という銘柄を出している。

幼い頃「肌にツヤが出てキレイに見えるから、お相撲さんは日本酒しか飲まない」と聞いた。現役の頃は先輩から「日本酒は必ず純米酒を飲むように。体にいいから」とも聞いた。日本酒について持った好感を信じて疑わず、かたくなに守ってきた。

いまだ本当の味は分からないが「飲みやすい」くらいは分かる。常温に凝っている自分が飲みやすく、美味を感じる銘柄を挙げてみる。

◆北海道の男山 旭川の名水で仕込まれている。

◆青森の田酒 飲みやすさとコクが両立している。

◆秋田の新政、高清水、亀の尾 飲んだ後、鼻に抜けてくる亀の尾は絶品。

◆宮城の浦霞 仙台では「浦霞でなくては日本酒ではない」と言われた時期もあったそう。ホヤをつまみに飲むと最高。

新潟には90あまりの酒蔵があるという。越乃寒梅、久保田、上善如水、緑川…どれもサッパリしていて飲み口がいい。他にも八海山、菊水、雪中梅などあまたあるが、中でも、何とも言えない飲み口の「麒麟山」を推薦したい。他にも知らない地酒がたくさんあるのだろう。

山形の初孫、十四代。石川の菊姫、天狗舞。天狗舞は魚、特に貝類に合う。埼玉の新亀、ひこ孫。東京の澤乃井。神奈川の箱根山。山梨の七賢。長野の真澄。福井の黒龍、早瀬浦。静岡の初亀。

◆京都の松竹梅、月桂冠、玉の光 玉の光と麒麟山は、沖縄のすし店で「飲んでみな」と勧められた。プロが勧めるだけのことはある。ちなみに「真澄」も沖縄の焼き鳥店で知った。

◆大阪の呉春 青森の田酒と同じ類いの美味だと思う。

兵庫は酒どころ。一時期、剣菱が幅を利かせた。白鶴、菊正宗、沢の鶴などなど。最近は播州の福久錦の評判がいい。広島もたくさんの日本酒がある。酔心、賀茂鶴。島根の月山。山口の獺祭。愛媛の梅錦。高知の司牡丹。

◆大分・西の関 関アジ、関サバ、城下カレイなどカボスとともに飲み食いする…これはうまかった。

1つの銘柄の中でも、昔で言う二級酒から大吟醸まで枝分かれしている。これらの中から自分に合っていて、美味と思ったクラスを見分けて飲む。

忘れている味も多々あると思う。「お前より詳しいわい!」と言われる方、ゴメンなさい。日本酒は実に奥が深く、野球と同じで卒業がない。(次回は10月下旬掲載予定です)

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチ。