先にプロへ行ったライバルたちに追いつく。昌平(埼玉)・渡辺翔大内野手(3年)は、高校通算48本塁打を誇る左の大砲。同50本塁打の右打者、花咲徳栄・井上朋也内野手(3年)と並んで、埼玉屈指の強打者と評価されていた。「右の井上、左の渡辺」。そう比較されることも少なくなかったが、プロ志望届を提出せず、大学進学を選んだ。

大学進学を決断し、4年後のプロ入りを目指す昌平・渡辺翔大内野手(撮影・湯本勝大)
大学進学を決断し、4年後のプロ入りを目指す昌平・渡辺翔大内野手(撮影・湯本勝大)

渡辺も高卒プロ入りを目指していた。「代替大会で力を精いっぱい出し切れたら志望届を出そうと思ってた」と振り返る。7試合で23打数6安打9打点2本塁打。チーム史上初の埼玉準優勝に導いたが、納得のいく結果ではなかった。最後の3戦は無安打に終わり、「このままプロに行っても通用しない」と志望届を出さないことを決断した。

ドラフト会議は外出中だったが、速報で追った。目に入ったのは、井上のソフトバンク1位指名だった。「井上君はすごい。打てるし守れるし足も速い。3拍子そろっていると(1位指名に)たどり着けるんだなと思った」とたたえた。

井上の他にもライバルはいる。西武育成4位指名を受けた浦和実・豆田泰志投手(3年)だ。「1年秋に戦って抑えられた。打席に立ったときの球の残像がずっと残っている。もう1回戦いたかったというのは常に頭の片隅にありました」。ともに埼玉で名をはせた選手たちが、先にプロの世界へ向かう。「ここが足りないというところや、やらなきゃいけないことが見えてきた」。同学年のよく知る選手がプロに行くからこそ、自分の現在地が分かった。

黒坂洋介監督(45)は、選手時代シダックスでプレー。野村克也氏から「ID野球」をたたき込まれた愛弟子から、渡辺は指導を受け続けた。高校3年間で最も学んだことに、カウント別の打席の入り方を挙げる。名将の思考を取り入れ、気持ちの持ちようや狙い球を絞りやすくなり、強打者へと成長した。

来春から東都1部リーグの立正大に進学する。坂田精二郎監督(46)もシダックス時代に野村氏に師事。渡辺は孫弟子として「ノムラの教え」を成熟させる。

立正大では、持ち前の長打力をさらに伸ばし、守備も上達させる。高校時代は外野や一塁を守ったが、三塁守備にも意欲的。幅を広げ、少しでもプロ入りの可能性を高める。すべては4年後にドラフト指名されるため。戦国東都で一回りも二回りも成長する。「プロをずっと意識して、自分に厳しく1日1日を過ごしていきたい」。早くも大学生活の覚悟を決めた。

ライバル心はずっと持ち続ける。「高校生でプロに行けなかった分、先に行ってしまった井上君や豆田君に、自分の実力がここまで来たぞと見せるためには、ドラフト1位や上位を狙わないといけない」と静かに闘志を燃やした。4年間で「渡辺翔大」の名を広め、プロの世界ではライバルに勝つ。【湯本勝大】