高校野球史の大きな転換期になるかもしれない。来年春から新規格の「飛ばないバット」が全国統一で採用される。投手のリスク軽減が目的。完全移行まで残り1年。影響はどのように現場に広がっていくのだろうか。第1回は新バット導入の経緯と意図について。

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高校野球が金属バットを導入した74年から来年でちょうど50年。変遷を繰り返してきたバットの歴史が新しい局面を迎える。各メーカーは競って「飛び」を追究し、球児の思いに応えてきた。今回は明確に逆をいく。前回を上回る厳格な規格変更。打球の平均速度は96%ほどになると計算されている。投手を守るのが一番の目的だ。長打のおそれが減れば投手の負担も減っていく。球数減少にもつながると期待されている。

85年3月、センバツ甲子園で試合前に出場校の金属バットを調べる大会関係者
85年3月、センバツ甲子園で試合前に出場校の金属バットを調べる大会関係者

新規格を紹介する前に、現行の規格について振り返る。01年秋から最大径67ミリ(従来は70ミリ)、重量900グラム以上でスタート。打球部が細くなれば金属のたわみが減り、反発力が落ちる。重ければスイングスピードが落ちる。大きな規制で打球速度を抑えようとした。最初の甲子園大会となった02年春は前年比7本減の14本塁打に収まった。

効果は絶大。そう思ったのも一瞬、同年夏には43本塁打とはね上がる。決勝を戦った明徳義塾、智弁和歌山を筆頭に打力が高かったからとの見方もある。それでも基準変更の前後5年の甲子園と比べると、1試合あたり約0・5本だったのが約0・6本に。その後も本塁打は増え続けた。

4月、報徳学園戦で2点本塁打を放つ山梨学院・佐仲
4月、報徳学園戦で2点本塁打を放つ山梨学院・佐仲

要因は打球速度がすべてではない。バット軌道を変えたり、ミート技術を上げれば本塁打が増えることはある。投手強襲のリスクと一概に関連付けることはできない。ただ選手の体格は大きくなり、インターネットの普及もあって打撃技術も日進月歩。メーカーの技術開発もある。いずれにしろ、飛ばないバットに「対応」したのは事実だ。

同じように米国でも「飛びすぎ問題」が起きていた。有効な安全基準を作れないかと、日本高野連はNCAA(全米大学体育協会)と情報交換を続けていた。NCAAは先行して、反発基準「BBCOR」を11年から施行した。NCAAが認定した大学研究室でしか効力をなさない厳格なテスト。日本のバットは基本的に国内生産。日本メーカーが利用しようとすれば渡航費、輸送費などで多大な費用がかかる。日本は独自の安全基準を定める方向に進むことになった。

契機は19年。甲子園で岡山学芸館の投手が顔面に打球を受け、ほおを骨折した。令和初の甲子園として注目された大会。ちょうどこの年、日本高野連は4回に分けて「投手の障害予防に関する有識者会議」を開いていた。投手の負担を多角的に検証する中で、バットにも話がおよんだ。新規格バットへの動きが一気に具体化。19年9月の常任理事会で着手が決まった。

それから3年。昨年11月に新規格バットが店頭に並び始めた。実物を手にしてみると、最大径(打球部)が3ミリ細くなって64ミリ。それ以上にグリップに続くテーパー部分(先細り)の細さが目立つ。握って全体を眺めると誰もが細さを実感するだろう。中身も変わった。芯の素材の厚みは1ミリ増えて4ミリ。金属のたわみが少なくなり、反発力は下がった。重さは900グラム以上の規定を踏襲した。

金属バット変更点
金属バット変更点
21年9月、日本高野連の田名部顧問は木製バットと新金属バットを持ち説明する
21年9月、日本高野連の田名部顧問は木製バットと新金属バットを持ち説明する

「SGマーク」を認証する製品安全協会と、競技団体(日本高野連)、メーカー各社、バット工場。それぞれが知見を出し合って生まれた合作だ。実は米国と違い、反発係数の数値は定めていない。万能測定器で押しつぶして強度を測定。試打を繰り返して仕上げた。試作品をBBCORのテストにかけると、ほぼ「合格」の結果が得られた。独自の測定システムがこれで確定。ほかの制限は太さと重さ。これだけでもメーカーの開発自由度は限られるという。今回の規定の中で「飛ぶバット」を作るのは難しいということだ。

最もこだわった「安全性」は投手に向けたものだけでない。金属バット導入初期は金属が縦方向に裂ける事故も起きた。技術が進み、今はひび割れなどで「寿命」が分かるが、素材が厚い新バットは耐久性が極めて高い。ただ、表面的に見えなくても確実に劣化は進んでいる。何年も使っていて、前触れなしに折れる可能性も否定できない。

先端部の強度を芯よりも少し下げて、傷ができるようにした。先端部をチェックしていれば疲弊度が分かるという仕組みだ。「事故が起きる前にどうやって寿命を知らせればいいのか。大きな課題でした。なるべく壊れない基準を作り、それが反発にも連動する。まさに選手に安全にプレーしてもらうための基準です」。日本高野連の古谷事務局次長は開発段階の苦労を明かした。

安全面でこだわり抜いた新バット。プレーの方にはどう影響が広がっていくだろうか。(続く)

甲子園の本塁打数変遷
甲子園の本塁打数変遷