先発で出場すると、いきなりドラッグバントを試みた。結果は投ゴロだったが、次の試合では成功させた。ショートを守った。センターの守備にもついた。プロ入りして初のファーストではフル出場した。打った。守った。走った。阪神西岡剛内野手(32)。10カ月余りを要して暗くて長いトンネル(左アキレス腱断裂)から脱出。はじめから自分で精いっぱいのパフォーマンスを演じて首脳陣にアピールした。首位打者、最多安打、盗塁王に輝き、大リーグにも挑戦した実力の持ち主。1軍昇格、間もなく声はかかるだろうが、今回、なぜかやけに慎重な気がしてならない。

 復活してもう1カ月が経過した。現状に、今一番複雑な気持ちでいるのは西岡本人だろう。阪神移籍後に故障してしばらく欠場したケースはあるが、以前は故障が癒えて試合出場が可能となれば、即1軍の戦力として起用されてきた。今回も同様に考えていたがどうも違う。西岡の年齢は32歳だ。昨今の選手寿命をみても、まだまだ衰える年ではない。そうこうしていると、つい先日チームに疑問を感じる動きがあった。新人大山の昇格だ。大山がファームで打ちまくっていたわけではない。両選手のレベルを比較するなら、西岡の方が一枚も二枚も上だが、そこで、あえてとった若手優先の方針は見事にはまった。これが今年の阪神か…。

 西岡の体調を考えての、大事をとった方針なのか。それとも、金本阪神が誕生してからのスローガン、昨年の“超変革”今年の“挑む”(Tigers Change)とあるように、変わろうとしているからか…。たとえ実績のある西岡であっても、うかうかしておれないチームになってきたということか。「凄く頑張るヤツだから。怖いでしょう」は金本監督。確かに、アキレス腱断裂という大けがをしながらも、故障明けのゲームでいきなりドラッグバントを敢行するような思い切ったプレーをする選手である。大事をとっても不思議ではない。

 実戦復帰を果たしたのは5月30日のソフトバンク戦(タマスタ筑後)だった。昨年7月以来10カ月余りのブランク。野球生命の危機を感じたこともあっただろうが、グラウンドに戻りたい一心でつらく厳しいリハビリを乗り越えた。はじめて守りについた。6月11日甲子園球場で行われたソフトバンク戦だ。1番ショート西岡でスタメン出場。注目した。プレイボール直後のその打球がショートへ。難なくさばく「ショートにこだわったわけではない。今は与えられたポジションを奪い取る心境です。ショートができればどこでも守れると思う。もう体の方は、そういう状態にまできているということです」。復活してはや1カ月余りが経過した。桧(ひのき)舞台へのアピールは続く。

 掛布2軍監督は心、技、体の、いずれの面でも最高の状態で1軍へ送り込む配慮をしている。「もう、上にはちゃんと報告していますし、守っている状態がすごく良いので、僕は心配していません。西岡も自分の置かれている立場はようわかっているでしょう」。中途半端な形で昇格させたくない。実績のある選手の扱いは非常にむずかしい。とくに感情論が絡むとぎくしゃくする。その点、同監督、選手の気持ちが読める人。長年、広報担当をしてきた私だが、そんなきな臭い気配など全くない。

 結果も文句なし。7月3日現在の成績は14試合に出場。40打数、16安打。打率はなんと4割。これ以上を望むのは気の毒。問題があるとしたら恐怖心か。故障した人一番の大敵。「もう故障前より元気ですから。今はグラウンドに戻れたことが何よりうれしい」。偽らざる気持ちだろうが、確かに恐怖心があるなら、いくらファームであってもこれだけの数字は残せない。

 そうか-。ここまで書いて阪神のチーム事情がやっとわかった。糸井の補強。高山、原口、中谷ら若手の成長。戦力は優勝争いをするまでにアップしているのだ。西岡の扱いは不思議ではない。1軍昇格。期待は大きいが、自分の力で実力でもぎ取る覚悟が必要。今年の復帰は野球生命をかけて戦ってほしい。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)