「投手へのあこがれ」を持っていた。岡田彰布の少年時代のことだ。実際に愛日小、明星中、さらに北陽高(現関大北陽)ではマウンドに立っていた。しかし、かつて伝えられたアドバイスが大きく影響した。「お前は手が小さいし、指も短い。だから投手よりバッターで進むべき」。これは阪神のレジェンド三塁手、三宅秀史からの助言。これで岡田の進むべき道は決まった。
野手に専念した。同時に投手の影響力を改めて知った。自分の経験と、後ろで守ることで、野球は投手力。これを痛感した。だから投手をリスペクトする。チームにとって投手は特別な存在。この考えはいまも変わりない。
つい最近、岡田の言葉で印象に残るものがあった。青柳について聞かれた時だった。「青柳の調整? そんなん2年続けてタイトルを取っているピッチャーに何を言うの?」。それほどの投手にあれやこれや、口にするのは失礼。そこまで岡田は青柳を信頼し、信じている。
幼少期、村山実の生きざまを知り、江夏豊の個性に触れ、小林繁の反骨心を目の当たりにした。「エースとは」の定義が岡田の中にある。それを満たしてくれるのがいまの青柳。岡田の口から青柳への称賛の言葉は止まらない。
2023年シーズンの先発投手の柱、エースと認めるのは青柳しかいない。「彼がなぜ素晴らしいか。それは勝たねばならぬゲームを確実に勝つところ。さらに多くのイニングを投げてくれる。そしてひとりで多くの貯金を積み上げる。これがエースとしての存在感」と岡田は熱弁をふるった。
監督になって、そこまでほれ込んだ投手はいたか。2004年からの阪神監督時代は井川がその座にいた。メジャーに渡るまで、岡田は開幕投手に悩むことがなかった。先発メンバーの投手のところに「井川慶」と書き込むだけだった。それほど井川はエースの条件を備えていた。イニングを数多く投げる。勝ち星を積む。チームの逆境を食い止める。そして、ひとり孤高の存在を保った。
井川は群れることをしなかった。ひとりでいつも考えていた。後輩から聞かれれば答えたが、自らパフォーマンス的な言動はなかった。まさに孤高のエース。それは阪神に脈々と受け継がれてきたエース像である。村山、江夏、小林から井川へ。そこから時間を置き、孤高の存在は消えたが、ようやく後継投手が現れた。それが青柳である。
2023年シーズン、セ・リーグ各球団のエースを見渡してみる。ヤクルト小川、DeNA今永、巨人菅野、広島大瀬良、中日大野雄か。彼らは入団時、ドラフト1位か2位。評価通りの内容であったが、青柳だけは異色だ。中央球界では無名のドラフト5位入団。さほど期待もされない投手だった。だが彼には潜在能力が眠っており、そこに反骨の精神が宿っていた。コントロールの悪さを地道な方策で克服し、眠っていたものを開花させた。骨太の力量は簡単には崩れない。いまの姿は当然の帰結。そう呼べるものだった。
かつて小林繁は言っていた。同い年で、多くを取材した相手だった。その小林はしみじみ「マウンドに1人で立つ。助けはない。それに打ち勝つことができるかどうか。そこが成功か不成功かの分岐点。要するに心が重要で、そこに尽きる」と吐露している。
小林がいた時代、江本孟紀や工藤一彦、伊藤文隆らの投手陣だったが、小林は後輩に自ら歩み寄ることはなかった。「常にひとりに勝てることを心がける。投手は孤独なんだよ。だからそういう環境にいつも立つこと。周囲を寄せ付けない空気というのかな。それを大事にしているわけよ」。小林にはその空気感があった。いまでいう「オーラ」と表現できるもの。そのにおいを、僕は青柳に感じている。
現在、若手と自主トレに励んでいるけど、その動向は派手に伝わってこない。それがいいのだ。派手なパフォーマンスはいらない。岡田が「何も言うことはない」と青柳に送った言葉は全幅の信頼の証し。オリックスの監督時代、開幕前の激励会で掟破りの開幕投手を表明した。「金子千尋でいきます!」。それと同様に今年、岡田は青柳と宣言する。エースは青柳! 岡田の思いは揺らがない。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)




