<みやざきフェニックス・リーグ:ヤクルト1-7阪神>◇18日◇アイビースタジアム

日刊スポーツ評論家・田村藤夫氏(61)のフェニックス・リーグ取材最終日は、阪神ドラフト2位、高卒ルーキーの井上広大外野手(19=履正社)のバッティングをチェックした。

阪神の初回。1点を挙げ、なお無死一、二塁で4番井上が打席に立った。マウンドはヤクルトの18年ドラフト3位、2年目の市川悠太(19=明徳義塾)。右のサイドスローに近いフォーム。その初球だった。シュートなのか、シュート回転したのか、そこは分からなかったがインコースへの厳しい、いいボールだった。市川にとっては苦しい局面だったが、その初球としては申し分ない球だった。

井上は、腕をたたんで左翼ポールから5メートルほど右のスタンドへ運んだ。体の反応で打ったという印象だ。インコースを狙って打ったとしたら、まず間違いなくファウルになるボール。もう一度打て、と言われても打てないだろう。

1点を先制して、さらにたたみかけたいところ。井上は積極的な姿勢で打席に入ったと思うが、初球のあの厳しい内角を体の反応で、しかも腕をたたんで左翼ポール右へ運んだところに非凡なものを感じる。追い込まれていたならまだしも、初球を打ったというところにも驚かされた。

私は捕手なので、その立場から考えると、ヤクルトバッテリーからすればゴロを打たせて併殺狙いという意図が感じられた入り方だった。それで左翼へ持っていかれては…。私がマスクをかぶっていたとしても、あそこを打たれたらしょうがないなと、思うしかない打球だった。打たれた市川はあぜんとしただろう。

高卒ルーキーを勘違いさせてはいけないことを踏まえて言うが、本物の4番打者というのは「相手のエースを打つ」「相手投手のウイニングショットを打つ」というイメージが私の中にはある。

井上はこれからの選手。ここから1軍でレベルの高い投手にもまれていく。このフェニックス・リーグで市川の内角を仕留めたことで、何かを証明できたとは言えない。ただ、打てば試合の主導権が握れる場面で、相手が自信を持って投げ込んだボールを、体の反応で腕をたたみ仕留めたことは、大いなる可能性を感じさせてくれた。

井上はフェニックス・リーグでは不振が続いていたと聞いたが、17日の楽天戦でも1本塁打を放っており、この日の3ランを見る限りでは何かきっかけをつかんだかもしれない。そう思わせるほどの強烈なインパクトを与える打撃だった。

私のみやざきフェニックス・リーグ取材はここまで。読んでいただいたプロ野球ファンの方にはお礼を言いたい。まだまだ不慣れなことが多く、しっかり考えが伝わらない点も多々あったと感じている。そうした点を踏まえ、また来季のイースタンリーグからリポートを届けていきたい。(日刊スポーツ評論家)