ソフトバンクから移籍してきたDeNA井上朋也外野手(23=花咲徳栄)のバッティングをメーンに球場に足を運んだ。
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温かいなと感じた。DeNAのファンはファームの試合にもたくさん見に来ていて、選手に声援を送っている。ここ数年、私は横須賀に毎年何回か足を運んでいるが、ファンの熱をとても感じる。ここから巣立った1軍選手が、より熱烈に横浜スタジアムで声援を浴びるのもうなずける。
この日も、大勢のファンの方が見に来ていた。私はその中で、この選手に注目すると決めていた。井上朋也。理由は、移籍して間もない中で、彼がどんなバッティングをするのか、そしてチームが変わって、ファンの皆さんはどんな風に見守るのか、そこに興味があった。
蛇足になるが、今回のDeNAとソフトバンクの大型トレードは、非常にインパクトが強かった。私のように捕手として長くプロ野球で生活させてもらった立場で言わせていただくと、シーズン中にレギュラー捕手を、それもまだ若く今後10年とは言わなくてもそれに近い期間は十分に活躍が予想できる強肩捕手、かつ強打の捕手を、トレードすることなど想像がつかなかった。
チーム内部のことは外からはわからないし、球団運営を任されている編成、球団トップの考えがあるとは思う。これもプロ野球の日常だし、その中でドラスティックに環境が変わったとしても、それを理由に成績が出せないことにはならない。いつどんな状況でも、チームの勝利のために全力で。これがプロ野球選手の大前提だ。
そして、私はここ数日、このトレードにまつわる話題について眺めていたが、多くのファンの視線はソフトバンクに移籍した山本と、山本が抜けて期待がかかる松尾に注がれていたように思う。それも流れだろう。山本がどうソフトバンクにフィットしていくのか、そして大きなチャンスが巡ってきた若い松尾がどうその好機で結果を出すか。それも分かりやすい見方とも感じる。
だが、私はちょっと違った。ソフトバンクから移籍してきた尾形と、そして何よりファームからスタートした井上朋に関心が行った。どんな打者なのか、この目で見たかった。あまり、話題には上らないが、右の強打者として、20年ドラフト1位、高卒6年目のバッターの現在位置を確かめたかった。
第1打席は初回2死一、二塁で巡ってきた。対するのはヤクルトのウォルターズ。初球、ど真ん中の真っすぐを見逃してワンストライク。2球目のスイーパーも見逃してボール、3球目の変化球を打ってファウル。追い込まれて4球目は明らかなボール球のスイーパーを振って空振り三振。
スタンドにはため息が広がった。ボール球にバットが止まらず空を切った井上朋は下を向いて、悔しい顔を見せまいとした。それがかえって井上朋の心境を代弁していた。まず、初球の見逃しがもったいない。場面からすると、まず真っすぐ狙いで打席に入ってほしかった。
ウォルターズのボールは井上朋にとっては初見の可能性が高い。それでも、追い込まれるまでは真っすぐへの比重を高めに、それが井上朋のような強打者には必須の心の準備と言える。打ってファウル、あるいは凡打に終わったとしても、どんどん振っていくことは、今の井上朋にはとても大切なことだと感じた。
初球の絶好球を見逃したことが、もしかすると頭の中に残っていたのかもしれない。だからかどうかは本人に聞いてみないと分からないが、4球目のスイーパーの空振りは、そうした心の乱れがスイングに現れたようにも見えた。後手後手に回り、やや自分を見失っていたようにも感じられた。
迎えた第2打席は3回1死満塁。同じウォルターズの初球、外角いいところへのスイーパーに、井上朋は迷わずバットを出す。ファウル。2球目、低めの真っすぐを見逃して2ストライクと追い込まれる。3、4球目のスイーパーは見逃して2-2の平行カウント。5球目は内角へのツーシーム。これを何とか手を出してファウルで粘る。そして6球目の外角真っすぐを、右方向へうまくさばいて2点タイムリーとした。
いっせいにスタンドが沸いた。第1打席の空振り三振で漏れたため息の数倍の歓声が球場を包み、井上朋はうれしそうにベンチに向かって笑顔を向けた。いい光景だった。ファンの声援に後押しをしてもらい、しっかり第1打席の反省を生かしたいいバッティングだった。
まず、初球スイーパーに手を出したことが評価できる。しっかり第1打席に打ち取られた反省を生かしている。狙っていたようなスイングに見えた。集中できているし、取り戻そうという意欲が感じられた。
2-2からの内角ツーシームに対応できたことが大きかったように思う。あそこはスイーパーが2球続いた後、真っすぐという読みもあっただろう。また、外角球が続いていたことから、ぐっとインコースを突かれたものの、しっかり反応できていた。
ここでバッテリーは、井上朋がスイーパーを待っていると予想し、裏をかいて真っすぐを選択したのではないか。ここも私の想像だから、何とも言えないが私にはバッテリーの組み立ての意図はそう見えた。井上朋からすれば、真っすぐも頭に入れながらのスイーパー対応ということに映った。スイーパーが頭にあると、どうしても真っすぐへの反応が遅れるのだが、よく対応して、うまく右方向へさばいた。内容あるバッティングだった。
第1打席の絶好球を見逃したこと、そしてボール球のスイーパーを振ったこと。これが尾を引いて、自分の中でしっかり考えがまとまっていなければ、おそらく第2打席初球スイーパーに手は出なかったのではないか。まず、しっかりスイングしたことで、井上朋に活路が見えた気がした。
こういうことの積み重ねだろう。リーグが変わり、チームも変わって、対戦投手など覚えることだらけで、不安もあるだろう。だが、この日のバッティングで見せた井上朋の備える姿勢と、しっかり右へさばける技術があれば、決しておそれることはない。
右打者は貴重な存在だ。そして、右中間、左中間を鋭いライナーで破る打球を十分に打てる鋭さがある。尾形の活躍とともに、井上朋のDeNAでの活躍を期待せずにはいられなかった。(日刊スポーツ評論家)





