秋田南・渡部勇人投手(3年)の思いがこもった8球だった。
19日に行われた高校野球秋田大会準決勝。秋田商戦に、背番号1の渡部は「4番右翼」で出場した。4回までに5点ずつを取り合うシーソーゲーム。5回以降は試合が落ち着いたこともあり、救援の機会が巡らなかった。8回に2点を勝ち越されると、9回に満を持して登板した。
「もう後は俺に任せろって。絶対流れ持ってきてやるぞって。もう必死に腕を振って、絶対ヒットにはならないだろうなって、自分の気持ちが勝ってると思った」と、堂々と腕を振った。テンポ良くわずか8球で内野安打1つのみの無失点。最後の攻撃につなげたが、及ばなかった。
敵将も息をのむ姿だった。投手陣の多くが2年生の秋田商を率いる太田直監督(45)は「うちの2年生のピッチャー陣に言ってたんです。最後に(渡部が)どういう投球をするのかというところをずっと見ておけと。やっぱり最後の最後の場面っていうのが、彼のやってきたことが全部出るでしょうから。なんていうか、高校野球の原点といいますか。もうあれを見せられたらこっちも(決勝戦への)覚悟がつくような。そんな投球を見せてくれました」と胸を熱くした。
渡部の表情に曇りはなかった。だが、聖地に惜しくも届かなかった3年間を振り返ると、言葉が震え出した。「甲子園に行けなければ、初戦敗退でも準優勝も一緒だって、本当にそう思ってたんですけど。こうやって負けてみると、『よくここまで頑張ったな』っていう気持ちもあるんです。まずは一緒にやってくれた仲間に感謝したいです」と、素直な思いがあふれた。
最後にバッテリーを組んだ2年生の日景健太捕手は涙に暮れていた。渡部は「これからのチームを引っ張っていく選手。甲子園に行って欲しい」。そんな思いで後輩の肩に手を置き、大会を彩った右腕が夏を終えた。【黒須亮】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)




