「そらシンプルにやることよ。自分らの戦いを変えんことやな。パ・リーグやからってそんな慌てる必要ないし」。交流戦を前に指揮官・岡田彰布が話した通りの展開になったのではないか。シンプルに。その象徴が5回の攻撃だろう。
この回先頭の8番・木浪聖也が左前で出ると9番に入れた捕手・坂本誠志郎が犠打。これが決まった後、2死一、二塁に状況が変わってから3番ノイジーに3点目の適時打が出た。先発・村上頌樹は好調で得点はこれで十分…という様子。8回を1失点で投げきり、勝利投手になった。
今季、阪神打線で目立っているのはリーグトップの四球数とここでよく書いているが犠打が多いのも特徴だ。この日の坂本で37個目もリーグ断トツだ。
「木浪を(9番に)しても1、2番と(左打者が)並ぶから9番には右打者を挟むよ。捕手をな。投手と一緒や。捕手にはバントや」。指名打者制の打順についても虎番記者たちに説明していた岡田だったが、快勝後も「それはもう予定通りよ」。計算通りという感じで話した。
このあたり、岡田をよく知る人物がその意図を解説した。85年日本一戦士の1人で、のちに常勝軍団の西武でもプレー。バントにも定評があった吉竹春樹だ。岡田の第1次政権ではコーチとして間近で支え、現在は母校・九産大九州の監督として球児を鍛える。
「岡田監督はよく“野球にはバントいうもんがあるんよ”と言ってましたね」。そう話す吉竹。岡田阪神が展開する“犠打戦法”については言うまでもない…という感じで説明した。
「投手がいいからですよ。先発もブルペンも。防御率トップでしょ。あれだけ投手力が安定してたら1点の意味は大きくなります。投手力に不安があったら、なかなかバントで…という攻撃にはなりませんよ」
安定した投手力をバックに犠打を絡めた確実な攻めで1点を取りにいく。少々地味かもしれないが、なにしろ勝てばファンが盛り上がる阪神である。
少々、驚いたのは先にバントしてきたのが敵将・松井稼頭央だったことだ。3回に古賀悠斗が決めた犠打が今季25個目だが西武の犠打数は12球団最少だ。「岡田の戦法に先手を打ってきたか-」などと思ったりしたが、いずれにせよ、阪神は普段着野球で苦しまずに先勝だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)