サヨナラの走者となった中京大中京・前田識人外野手(3年)は、喜びを表に出さなかった。「正直言うと、喜びたかったですけど、相手に敬意を払わないといけない。中京には『相手に敬意を払う』というのがあるので」。相手の気持ちを思いやった。

延長タイブレークとなった10回表の守備から途中出場。10回裏の攻撃では、無死一、二塁から行われるタイブレークの二塁走者になった。相手の失策で無死満塁とし、1番西村の打球は二塁後方へ高く上がった。インフィールドフライが宣告されており打者走者はアウトとなったが、二塁手が落球した間に前田が本塁に滑り込んだ。「スキがあれば走りに行こうかなと思っていた」。野球人生で初のサヨナラの走者。ベンチのナインからエアハイタッチで迎えられ、ようやく喜びがはじけた。

実は自分が二塁走者だと気づいたのは、10回裏が始まる直前。「僕が二塁ランナーで出ると、正直気づいてなくて、焦りました。ベンチで自分の名前を呼ばれて、気づきました」。三塁ランナーコーチの原田夏希内野手(3年)とサインの確認や、犠打の時には出過ぎないなど入念に準備。「前から練習で、(野手が)落としたらそこから走る、捕った場合は戻ると、言い聞かせられていた。練習通りに出来ました」。50メートル走のタイムは6秒6。「走塁は得意じゃないです」と話したが、最後に大きな仕事を果たした。

中京大中京は、昨秋から今夏の愛知県独自大会・決勝まで、公式戦無敗の27連勝。「チームの無敗記録を有終の美で飾ろうと思っていた。本当に無我夢中で走りました。僕の野球人生で自分がホームインして終わったことはない。今後の野球人生にむけて、とてもいい経験になりました」。貴重な経験を手にして、聖地を後にした。