東北工大(仙台6大学)野球部のヘッドコーチを務める元ロッテ佐々木信行氏(65)が、来春の公式戦からベンチ入りすることが決まった。昨年2月にヘッドコーチに就任。ラジオ解説者を務めていたが、規定でベンチ入りが認められないため、12月いっぱいで解説業を辞め、指導に専念することを決断した。

Aクラス定着の条件が整った。東北工大のベンチに頼もしい参謀が加わる。ロッテ時代に2軍監督をはじめ、長年コーチを歴任した佐々木氏のベンチ入りがついに解禁となる。今春リーグ戦は3位で04年春以来のAクラス入り。しかし、秋季は4位に甘んじた。「技術は教えられるけど、『野球』を教えるにはベンチに入らないと難しい」。東北放送ラジオの人気解説者の地位を捨て、指導者一本で勝負することを決断した。「収入? 何かをやるには何かを犠牲にしなきゃいけない。子供も独立したし、後は食べていければいいんですよ」と笑った。

ヘッドコーチ就任以来、まずは基本を強化した。「ようやくゴロを普通に捕れて、バットも振れるようになった。今後はどうやって1点をとるか、細かい守備の動きなどを少しずつ教えていきたい」と次のステップを見据える。勝つための緻密さを植え付ける一方で、選手には野球を心底楽しんでほしいと願う。「(投手の)20秒ルールとか規制だらけでかわいそう」と選手ファーストの環境作りのために、嫌われるのを覚悟で声を上げていくつもりだ。

野球離れ、と叫ばれるが「好きじゃないからやめる。好きだったらやめないでしょ。勝ちたいから指導者が怒って厳しい練習を課す。だから楽しくなくなる」と負のスパイラルを嘆く。だからこそ「理想は楽しくやって勝ちたい。そこが指導者に求められる課題だと思う」。

打撃練習では「こちょこちょ当てるんじゃなく、ホームランを打ってほしい。飛ばさなきゃ楽しくないでしょ」とフルスイングを推奨する。佐々木氏のさりげないアドバイスで打球の弾道が見違えるように変わる。気をよくした選手は自主的に練習を続ける。水間幹也主将(3年)は「ベンチに入ってくれるのは本当に心強い。Aクラス入りが最低ラインです」と高い意識を持つまでになった。佐々木氏も「これをやったら勝てる可能性があるという部分は分かっている」と自信ありげ。百戦錬磨の「影の指揮官」が、東北工大を仙6のダークホースに仕立て上げる。【野上伸悟】

◆佐々木信行(ささき・のぶゆき)1953年(昭28)5月2日生まれ、宮城県本吉郡津山町(現登米市)出身。佐沼高から71年ドラフトでロッテ10位で入団。1軍通算46試合で打率2割3分8厘、1本塁打、5打点。82年に引退し、1、2軍でバッテリーコーチを歴任し、03年には2軍監督を務めた。「走者一、三塁での偽装スクイズによる一塁走者の二進」は同氏がつくった作戦。ロッテ時代の盟友は落合博満氏。右投げ右打ち。178センチ、86キロ。