ロッテが変わろうとしている。開幕から15試合での15盗塁は、12球団で2位。井口資仁監督(45)が掲げた「試合数と同じ盗塁数」の目標をキープし、昨季の同7位から大きく増やしている。盗塁でチャンスを広げ、接戦をタフに戦うケースが目立つ。今季から一塁ベースコーチを務める伊志嶺翔大走塁兼打撃補佐兼外野守備コーチ補佐(32)に、オンライン取材で手ごたえを聞いた。

     ◇     ◇     ◇

韋駄天(いだてん)と強肩の10分47秒の息詰まる攻防だった。0-1で迎えたソフトバンクとの開幕戦の、9回無死一塁。俊足を買われ支配下登録されたばかりの和田康士朗外野手(21)が、代走に起用された。

2死後、試合終了まで「あと1球」から二盗を敢行した。球界屈指の強肩でならすソフトバンク甲斐の1秒98の二塁送球に、二塁到達3秒07の快足で勝ち、土壇場でプロ初盗塁。中村奨の適時打で一時同点となるホームを踏んだ。

緊張のプロ初出場を、伊志嶺コーチが後押しした。昨秋に現役引退した。「自分もあの試合がコーチとして初めてで…。ちょっと落ち着きがなかったと思います」。盗塁失敗イコール、試合終了の局面。しかも3月20日の練習試合で、和田は甲斐に刺されている。「あそこは絶対にアウトになれない場面。せめぎ合いでした」と回想する。

和田の登場後、10球が打者に投じられ、アウトは2つ増えた。ソフトバンク森からのけん制球は7度。投手や打者が計3度、タイムを取った。20度あった間(ま)の全てで、和田に近寄った。「状況確認です。カウントによっても流れは動いていくので」。

丸腰で臨んではいない。キャンプ直後の練習試合からチームは積極的に走った。例えば2月25日のソフトバンク戦(アイビー)。初回から走塁死と盗塁死でチャンスをつぶした一方、2回以降も盗塁も3度企図し、2つを成功させた。多くの挑戦から学んだ。「失敗することで、こういうけん制をするんだって分かったり。積極的に走らないと得られないことはあると思います」。気付いたことはすぐにメモ。長いシーズンを見据え、データを蓄積していく。

走者からコーチに、立場が変わった。「見える景色は違いますね」と話す。走者にはアウトのリスクがつきまとう。「だから投手とかの細かい動きは見られない。ベースコーチはそこを重点的に。微妙な動きの違いを見逃さないように」。常に集中が求められる仕事を「第三者として状況を見つめ、伝える。とても難しい立場」と感じている。

孤独ではない。選手と対話し、情報を深める。大塚三塁ベースコーチとも、綿密にすり合わせる。見事な甲斐キャノン撃破を「あそこは本当に、全てが集約されました」と振り返る。「ミーティング、情報共有、練習…その中での最善策があの場面で出ました。そして、和田の足が勝ったんです」。緊迫の10分47秒を経ての成功は、十分な準備があってこそ。伊志嶺コーチにも忘れられない“初盗塁”になった。

幾多の企業秘密を駆使し、約27メートル先の塁を目指す。「企業秘密? 何個とも言えないですが…でも、盗塁はやっぱり準備が大切です」と断言する。「準備、情報がないと思い切ってスタートできない。塁に立ったら、思い切ってスタートを切るだけですから」。

最後は人と人の勝負。ここ一番で背中を押せる存在になりたい、という。和田にも時に「足で勝て」と奮い立たせる。15盗塁は「何より、選手が一番頑張っている」と感謝する。成功率も7割8分9厘で、昨季より約1割増した。脚力×情報×組織力。相乗効果で、ホームベースへの距離が縮まる。【金子真仁】

○…俊足和田は今季ここまでリーグ3位タイの4盗塁をマーク。伊志嶺コーチが「場数や経験がすごい」と驚く荻野が7盗塁でリーグ1位、12球団1位の座にいる。19年は75盗塁、18年は124盗塁。ともに成功率は6割8分台だった。87年の年間152盗塁以降、シーズン盗塁数が総試合数を超えたことはない。

▽ロッテ井口監督(開幕戦含め、和田らの盗塁について)「今年は最後に足で追いつける力がある。負けている展開で足で追いつける。普段は基本的にはバントになっちゃうんですけど、そこをバントじゃなくてしっかりと走れてつなげる。攻撃的にできている」

▽ロッテ井口監督(楽天6連戦で、和田の代走起用のタイミングが1度もなく1勝5敗)「そういうチャンスも少なかったし、少ないチャンスも生かし切れなかったので、こういう結果になってしまった」

▽ロッテ和田 開幕戦は、初出場が大事な場面で、めちゃくちゃ緊張しました。限られた緊迫する場面で、盗塁を決めることや生還することが大事だと思っています。盗塁での課題はスタートです。中間走は自信があります。