その銀行マンには2つの顔がある。四国銀行(高知市)の南武志は(24=同大)は外回りの渉外担当。企業や個人事業主を訪問し「融資の提案やコンサル的なことを紹介したり、経営に関わることを提案しています」。柔和な笑顔からは誠実さがにじみ出る。

しかし、バットを持つと、表情は一変する。都市対抗野球2回戦。180センチ、110キロと恵まれた体格の銀行員は、強豪パナソニック(門真市)を相手に牙をむいた。4回1死一塁、右中間へ適時二塁打を放って先制。捕手として投手陣を巧みにリードし、2-1と接戦を制した。四国勢では77年以来の8強に、スーツとネクタイの時とは違う荒々しさでガッツポーズを繰り返した。

「倍返し」も成し遂げた。89年の都市対抗1回戦でも当時松下電器の同チームと対戦。8回まで5-2でリードしながら、9回に一挙4点を失ってサヨナラ負けを喫した過去がある。南は「1回戦前からパナソニックの映像を見た。投手とこう攻めようと研究しました」。分析力が役立つのは、本業だけではなかった。

銀行員と野球選手の両立は、生半可ではうまくいかない。休日は野球に費やせるが、月曜と金曜は午前8時30分から午後5時30分まで勤務のため練習はできない。火曜から木曜は午前6時30分から午前10時まで練習を行い、正午から出勤。他チームより制限がある中で技術を磨く。「練習時間が短いところでも勝てるという気持ちが一番だと思います」。強豪に対してふつふつと燃やしてきた「半沢直樹」ばりの闘志で8強進出をつかんだ。

1回戦では13年ぶりに初戦を突破して、チームとして大会通算2勝目を挙げた。次戦は12月1日、ヤマハ(浜松市)とNTT東日本(東京都)の勝者と対戦する。地域活性化に貢献する銀行員たちが、勝利で地域に恩返しをしていく。南は「次の相手も格上だと思うが、守りでも攻撃でも初回から攻める気持ちを忘れずに戦っていきたい」。強大な相手にひるまない姿は、ドラマの銀行員と同じだ。【湯本勝大】