トリさん、打ちまくって優勝します! 阪神梅野隆太郎捕手(30)が大先輩に元日の誓いを立てた。22年から日刊スポーツ評論家に就任した元阪神、ロッテの鳥谷敬氏(40)と初対談。国内FA権を行使せず残留した理由は? 若虎軍団をV奪回に導くカギは? スランプ脱出の秘策とは? 今季の3大目標からリーダー論、打撃論まで久々の再会で語り尽くした。【取材・構成=佐井陽介】

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梅野は21年、打率2割2分5厘でシーズンを終えた。得点圏打率は3割2分1厘を誇り、特に前半戦は驚異的な勝負強さを発揮。一方で後半戦は今季最長の23打席連続ノーヒットなど10打席以上の連続無安打が4度あり(※1)、最後は直近の4年間で初めて2割5分を下回った。22年の課題は「波を少なくする」。そんな後輩に向けて、鳥谷氏は1つのヒントを授けた。

 

鳥谷 個人の話に戻すと、あらためて今年はどんなシーズンにしたいのかな。

梅野 143試合をやり切るところでは波を少なくしたいです。波は絶対にあるものだけど、去年はそれがちょっと長すぎた。20打席以上の連続ノーヒットが2回もあったので。今年は波を少なくしたいですね。

鳥谷 調子が落ちている時って、おもしろいもので何をしても戻ってこないんだよね。自分の場合、そんな時は打数を減らすことを考えていたかな。四球を取ったり、なんとか犠牲フライを打ったりして、打数を減らすことを考えていた。悪い状態はどうしても10日間から2週間ぐらいはかかってしまう。その10日間で何かをやろうとして、また余計なマイナス点が生まれてしまうんだよね。もちろん練習して、もがくのは当然なんだけど、10日ぐらいたったら自然と良くなるもの。だから、その10日間はなんとか打数を減らそうと考えていたかな。

梅野 なるほど! その考え方はなかったです。自分の場合はどちらかというと、ボールを見てしまうと手が出なくなるから積極的にいこうというパターンがあって。何をしてもうまくいかないから、1球目にがっついてボール球に手を出してしまったり、甘い球が来て「よっしゃ」と思ったら正面を突いてしまったり。そういう悪循環の中で待ってみたら、今度は最後にボール球を空振り三振してしまったり…。トリさんが言ってくれたようなことも技術的にやってみたいです。

鳥谷 自分の場合、打席の中で捨て球種を決めたりしていた。二塁走者をなんとか進塁させたい場面だったら、セーフティーバントをしてみたり。そうすればたとえアウトになってもチームのためになるし、結果的に打数も減らせる。そういう打席の積み重ねがトータルで見たら意外に大きくて、1年間で見たら打率2割5分が2割7分、良い時だったら2割7分が2割9分、3割になる。そういう技術も長くやっていく上では大切になると思う。キャンプなんかでも、悪い時の逃げ道を作れるような打撃も頭に入れて練習するのもいいかもね。わざとマシンでファウルを打ってみるのもいいし、毎日じゃなくてもそういう練習もしておけば、意外と逃げ道を作れたりする。打ちたい気持ちはすごく分かるけど、悪い時はどうしても10日間はかかってしまう。そこでやりすぎて体を壊したら、より悪くなってしまう。10日後に良くなるように、その10日間をどう過ごすかも大事になるかなと思う。

梅野 同じノーヒットでも4タコ(4打数無安打)が3タコ(3打数無安打)になっていたら、次の日の気持ちも全然違いますもんね。

鳥谷 1日1打数減らせれば10日で10打数。そうすれば25タコ(25打数無安打)が15タコ(15打数無安打)になる。がっつくのは調子が良くなってからでもいい。悪い時に四球や犠牲フライで打数を減らせればチームのためになるし、個人の数字も良くなる。自分なんかは1日1本ヒットを打って、なんとか1試合を3打数にすることを常に考えていた。そうすれば単純計算で年間3割3分3厘になるからね。もちろん1本打ったら2本目となるけど、どうやって1日1本ヒットを打つかを3打数を使いながら考えていた。それがうまくいけば、今度は前の3打席を使って4打席目に打つ方法も考える。絶対に直前の3打席にヒントは隠れているわけだから。それを探しながらやれば、143試合で150本近くヒットを打てる。打数を減らせば3割近く打てるし、普通にやっても2割6分から2割8分になる。これは大和(現DeNA)にも話したことがあるんだけど、同じヒット数で2割5分を2割7分にしようと。そうすればチームのためにもなるから。

梅野 もちろん打ちまくりたいという気持ちはあるけど、トリさんが教えてくれた考え方も持った中で、プラスアルファを考えていきたいですね。

鳥谷 打てない時って、どうしても「なんで打てないんだろう」とマイナスに考えてしまいがち。でも、どうやって打数を減らそうという考え方ならマイナスのイメージ、嫌なイメージは少なくなる。気持ちが前向きになれるから、結構使えると思うよ。

梅野 あと、打撃面では変えようと思っている部分もあります。引っ張りたい時に引っ張れるようにならなきゃいけないと思っています。去年は一昨年よりも左中間、センターから右寄りの打球が安打も凡打も増えていた。三遊間に打っている感じも少なかった。今年は引っ張りたい時に引っ張れるようにも練習していきたいと思っています。

鳥谷 そうなんだ。梅ちゃんには引っ張りのイメージがあった。去年は意識して右に打っていたの?

梅野 違います。普通にポイントを差されて合わせにいくような感じになってしまっていました。去年は右打ちがうまいみたいな感じにもなっていましたけど、自分のイメージはめちゃくちゃ引っ張り。追い込まれてから右方向に打球が行くのは普通だけど、それまでは強く打っていきたい。シーズンをトータルで見れば、打つ方に関してはもっとできると思っているので。

鳥谷 じゃあ、やっぱり3割30本100打点だね(笑い)。今年も活躍を楽しみにしています。

梅野 ありがとうございます! 頑張ります!

◆鳥谷敬(とりたに・たかし)1981年(昭56)6月26日生まれ、東京都出身。聖望学園3年夏に甲子園出場。早大2年春に東京6大学史上最速タイで3冠王。03年ドラフト自由枠で阪神入団。04年9月からの1939試合連続出場はプロ野球2位、17年9月には通算2000安打を達成した。19年限りで阪神を退団し、20年3月にロッテ入団。21年限りで現役引退。13年WBC日本代表。ベストナイン6度、ゴールデングラブ賞5度。180センチ、79キロ。右投げ左打ち。

◆梅野隆太郎(うめの・りゅうたろう)1991年(平3)6月17日、福岡県生まれ。福岡工大城東-福岡大を経て13年ドラフト4位で阪神入り。1年目から92試合に出場。17年に正捕手の座をつかみ、18年から3年連続ゴールデングラブ賞。19年4月9日DeNA戦では阪神捕手で初のサイクル安打を達成。21年夏の東京五輪では侍ジャパン金メダル獲得に貢献。21年オフは同年に初取得した国内FA権を行使せず、3年契約で残留した。173センチ、75キロ。右投げ右打ち。

 

※1…梅野の昨季最長連続無安打は9月14~23日の23打席(15打数)連続。5月16~27日にも21打席(20打数)連続があった。9月中旬以降は10打席以上の連続無安打が23打席連続の他にも2度。9月24~29日は13打席連続、10月3~10日は16打席連続無安打。9月15日以降は計67打席55打数5安打で打率9分1厘と苦しんだ。