リードを数値化する-。日刊スポーツ評論家・里崎智也氏(46)が、投手の評価基準となっているクオリティー・スタート(QS=6回以上、自責3以内)を活用し、捕手の「QS率」を算定。捕手の貢献度が可視化されたことで、見えてきたものとは…。【データ担当=多田周平、構成=井上真】

■里崎チャレンジ「リードを可視化して評価基準を作ってみる」

私には捕手の評価基準を設けるという目標があります。ファンの皆さんになじむまで、チャレンジしようと考えています。評価基準の本質は「捕手が試合を作ったかどうか」です。リードのデータ変換にトライしました。

投手QSをヒントにして、QSの視点を変えて活用することにしました。QS達成率の担い手の一方が投手ならば、捕手はもう一方で貢献しています。スポットを先発投手から正捕手に変え、先発マスクで6回以上出場、自責点3以下の達成率をバロメーターにしました。

チーム表(A)を見ると、阪神、オリックス、ソフトバンクが上位に来ます。チーム表は全体をカバー。正捕手に特化したのが個人表(B=9選手)です。基本的に正捕手のQS率は、A表よりも良くなります。その平均値は2・1ポイントです。

まずトップの捕手QS率を誇る梅野(阪神)が光ります。またAとの差を見ると、嶺井(DeNA)8・8ポイント増、中村(ヤクルト)3・9ポイント増、大城(巨人)3・1ポイント増、甲斐(ソフトバンク)2・7ポイント増と、よく試合を作っていることが数字に出ています。

対してチーム表よりも低いのが炭谷(楽天)3・5ポイント減、森(西武)2・3ポイント減です。データでは捕手QS率で苦戦しています。西武はチーム防御率もリーグ1位ということを加味すると、森のリード面の課題が浮き彫りになります。

規定出場試合(※メモ参照)に到達していない中では、伏見(オリックス)8・1ポイント増、松川(ロッテ)7・9ポイント増とよく健闘しています。一方、若月(オリックス)は3・8ポイント減と低い数字になりました。

捕手QSを活用することで、「捕手が試合を作っているかどうか」を測ることができます。

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捕手QS率を、チーム表と個人表で比較しながら分析することで、来季への課題も見えてきます。改善点が如実に出ているチームを解説します。

まず、岡田新監督の阪神です。チーム表、個人表ともにトップ。なおかつ投手QS率(C)でも56・6%でトップ。バッテリー間の充実度が際立っています。それでも優勝に届かなかったのは、攻撃面と失策の多さによる無駄な失点になります。開幕9連敗は言うまでもなく、バッテリーの強さを援護する攻撃力、スキを与える失策の大幅減、この強化に尽きます。

日本一オリックスも伏見がFA移籍した場合は、かなりのダメージが予想されます。西武森の獲得に動いており、仮にオリックスが獲得すると、打撃面の強化は見込めますが、ディフェンス面で伏見の穴を埋めることができるかどうか、そこは冷静に見極める必要がありそうです。

同時に、森のFAで注目の西武は、仮に森が抜ければ攻撃面では大打撃を被りますが、守備面では不安要素があったことを考慮すると、移籍に伴う守備面でのダメージは少ないのではないかと想像します。

松川は規定出場試合に達してないものの、健闘した数字を出しており、継続してディフェンス面を鍛えれば、吉井新監督を迎えた新生ロッテ浮上への重要なピースになりそうです。ただし、打撃面での成長は必須です。

最後に、シーズン中に何かとざわついていた甲斐について触れておきます。たびたび批判の対象となっていましたが、こうして数字を見ると、よく踏ん張っていることがわかります。投手のQS率が12球団最低であるにもかかわらず、個人表で上位に食い込み、さらに平均値よりも高い2・7ポイントをたたき出しています。

配球に限らずリード全般で投手陣をけん引した甲斐の能力の結果であり、同時に強力リリーフ陣の実力と言えます。それがゲーム差なしの2位という結果につながったと感じます。

来季はエース千賀が抜けることが予想されます。ソフトバンクはエース依存度が高いチームです。2番手以降の先発陣の底上げが急務です。コンディション維持など投手整備をしておかないと、来季の戦いは不透明です。

捕手の評価基準の提案から、「捕手が試合を作ったかどうか」が可視化され、さらにそこから各チームの改善点の考察・分析まで掘り下げることができました。(日刊スポーツ評論家)

◆捕手QS 先発で「6回、自責点3以内」を試合を作った指標として、先発投手を主体に考えたデータがQSであるのに対し、先発捕手に焦点を当てたのが捕手QSとなる。正捕手だけを抜き出したデータが個人表(B)。チームよりも個人の方が数字がアップする傾向にあり、その平均値は2・1ポイント。この平均値も参考に、正捕手のQS率を吟味する。正捕手の規定出場試合数をレギュラーシーズンの半分72試合までとする。今季もコロナ離脱により、チームによって出場試合数に差は出ている。