国境、性別の差を超えて世界中にファンを持つWWEの“女帝”ことアスカ(ASUKA=38)の歩みをたどる連載「アスカの歩む道~“女子プロレス”を超えて~」。第2回は、WWE入団からトップに駆け上がった現在までを振り返る。

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2015年10月、下部組織NXTでWWEデビューしたアスカは一気にスターへの階段を駆け上がった。負けなしで16年にNXT女子王座を獲得。17年にロウに昇格した後も勢いは止まらず、18年に女子初のロイヤルランブル戦を制覇。その年、ニューオーリンズで行われた年間最大のビッグマッチ「レッスルマニア」ではシャーロットに敗れたが、デビュー以来267連勝という前人未到の記録を残した。成功の裏にはアスカ自身の創意工夫があった。

「デビュー以来、ずっと常に試合のことを考えています。どうしたら、WWEユニバース(WWEのファンを示す言葉)が喜んでくれるのか…。もしかしたら、見ている方は私がこういうキャラクターをするよう指示されていると思われているかもしれないですが、もう、まったくないですね! 自己プロデュース力が必要なんです」

WWE女子タイトル制覇の偉業を達成したアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved
WWE女子タイトル制覇の偉業を達成したアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved

色彩豊かなコスチューム、能面を使ったパフォーマンス、大阪弁のマイクなどファンを喜ばせるために思いついたアイデアを、その都度ビンス・マクマホン社長やプロデューサーに伝え、実行してきた。

「コスチュームのデザイン、色、形もこういう感じだと自分で考えてますし、髪をピンクにしたいとか、こういうことがしたい、いつもビンスに伝えています。大阪弁もWWEデビュー当初から使っているんですが、ビンスら会社の人たちが気に入ってくれたみたいで、『もっともっとわけがわからない関西弁しゃべってくれ! あれが欲しい!』みたいに要求されて、現在だんだん程度が強まっている感じです(笑い)。何より、大阪弁で話すとWWEユニバースの人たちがすごい喜んでくれるんです。私の言い方もあると思うんですけど、しっかり内容は分からなくても、伝わるんですよ。こんなに日本語でマイクしゃべらせてもらえるって、あんまりなかったと思いますけど、ばんばんしゃべらせてもらってます」

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、WWEも今年春から無観客試合を放送し続けている。その中で、5月にアスカはWWE本社全体を使って王座挑戦権利書の入ったケースを奪い合う「マネー・イン・ザ・バンク」で優勝。翌日にロウ女子王者のベッキーから、妊娠の告白とともにベルトを渡され、新王者となった。これで、WWE女子の主要タイトルを全制覇。今は再びベルトを失ったが、コロナ禍の中でトップ戦線をかき回し、WWEを盛り上げ続けている。無観客という特殊な環境での試合が続くが、日本時代の経験が生きているという。

「仕事はコロナ禍の前より、今のほうが忙しいです。半端じゃないぐらい仕事してます。無観客は全然気にならないんです。日本のフリー時代、試合の大小問わずいろんな団体に出ていたんです。地方のお祭りに参加して、リング作って試合することもありましたし、数人しかいない小さい会場でやったりもしました。関係者の人たちからは『やめた方がいい』『試合を選んでベテラン感を出したほうがいい』とかアドバイスをめちゃめちゃもらいましたけど、この時にいろんな試合を経験したことが今に生きているんです。臨機応変にパフォーマンスできているのはそのおかげだと思います」

WWEに入団してから5年弱。約30言語、世界の約180カ国で放送されていることもあり、米国、日本だけでなく、メキシコ、英国、フランスなど世界中から応援メッセージが届く。

「(成功は)狙い通りでは確かにあるんですけど、よく考えたら信じられない感じですね…。よくWWEのスタッフから、私が出ている時の視聴率がよかったよ、とか、トレンドに入ってるよとか言われるんです。私ならではの、何か印象を与えられているのかなと思います。試合する度に、リック・フレアーや、他のスーパースターたち、WWE以外の選手からも良かったよ、と連絡もらったりする。評価してもらえているのは、めちゃくちゃうれしいです。ただ、本当に大変です。常に壁にぶちあたって、それを越えて、また壁があって、また越えて…。デビューしてから、ずっとその繰り返しです」

WWEで大きな結果を残したアスカの今の夢は、プロレスの枠を飛び越えた“インフルエンサー”になることだ。

「グランドスラムを達成したり、記録を作ったことで、プロレス以外のところで、例えば本田圭佑や、ゲーム会社のカプコン、ナムコなどいろんな人脈が増えました。だから、やっぱり自分自身の価値をもっと高めたいです。価値が高まれば、社会やビジネスに反映させていけるし、発言力や影響力が生まれる。私の言葉によって、困っている人を助けることもできるかもしれない」

自分で考え、道を切りひらいてきたアスカだからこそ、言葉に力がある。これから何かに挑戦しようとする人へ、エールをもらった。

「過去にひきずられないことだと思うんですよ。例えば、私の場合は過去をひきずるファンや、関係者の言葉に耳を傾ける必要がないと思っています。古い風習、価値観に縛られ、業界が衰退してきた現実があるので…。日本人は真面目なので、上下関係で損している人がたくさんいると思いますが、成功している人だけの意見を聞いた方がいいと思いますよ。“上”の人の言葉は、気にするな!」【高場泉穂】

<アスカ(ASUKA)の主な歩み※WWE入団以降>

▼2015年(平27)9月8日 WWEとの契約を発表。

▼同10月7日 デイナ・ブルック戦でNXTデビュー。

▼16年4月1日 ベイリーを下し、NXT女子王座獲得。

▼17年10月22日 「TLC」でロウに昇格後初戦。

▼18年1月28日 女子初のロイヤルランブル戦に出場し、優勝。

▼同4月8日 「レッスルマニア34」でスマックダウン女子王者シャーロット・フレアーに挑戦し、敗退。デビュー以来の連勝記録が267で止まる。

▼同12月16日 王者ベッキー、シャーロットとの戦いを制し、スマックダウン女子王座初戴冠。

▼19年4月15日 カイリ・セインとのタッグ「カブキ・ウォリアーズ」を結成。

▼同10月6日 WWE女子タッグ王座初戴冠。

▼20年5月10日 WWE本社で行った「マネー・イン・ザ・バンク」ラダー戦で勝利。王座挑戦権を獲得。

▼同年5月11日 妊娠発表したロウ女子王者ベッキー・リンチからベルトを譲渡され、新王者となり、WWE女子主要タイトル全制覇を達成。