スーパーフェザー級を判定で制した大谷新星(21=真正)は、試合直後から浮かない表情だった。ここまで3戦3勝3KOのパーフェクトレコード。しかし、この日は気持ちが空回った。「MVPを狙いすぎて大振りになった。MVPもKOもできず、一番の悔しさです」と唇をかんだ。
ただしっかり全日本決勝の舞台、後楽園ホールに進んだ。導いてくれたのが元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎だった。この日の出場選手が記したアンケート。大谷はボクシングへの動機の欄に「少年院で呼んだ辰吉丈一郎さんの小説(自伝)を読んでもう1度、ボクシングをして人生を変えようと思った」と書いた。
小学2年から中学卒業まで井岡ジムに通った。「親にいやいや行かされてました。ボクシングが好きではなかった」。中学卒業と同時にジムから足は遠ざかった。工場勤務の仕事も長続きせず、次第に道をそれた。18歳の時、強盗や傷害で少年院へ。その時、母親が差し入れてくれたのが辰吉の本だった。
「少年院に入ってこのままじゃダメだという時期に(本と)出会った。辰吉さんの生き様ですね。50歳を過ぎても現役を公言して頑張っている。かっこいいじゃないですか。普通に勝つんじゃおもしろくない。辰吉さんのように『魅せるボクシング』は学ぶところがたくさんあります」
ボクシングで曲がった道から修正した。真正ジムの門をたたいたのは「自分の名前(新星)も同じですしね」。そして元マル暴の警官だった山下会長の存在。「荒れていた自分の気持ちも分かってくれるし、本当に厳しいですよ。厳しさがないと自分は甘えてしまう」と厳しい環境での再出発を自ら選んだ。
リングシューズには「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」の刺しゅう。「織田信長が特に好きというわけではないけど、武士の生き方はかっこいいんで。リングに上がる時の気持ちです。倒される前に倒してやる」という思いをこめた。
全日本の舞台でやり返す。「大振りではなく、倒すパンチを磨いていきたい。今回はいい経験ができた。荒れていた時期も、それがあっての今。全日本でMVPをとります」。目を輝かせた表情には、荒れていた面影はかけらもなかった。【実藤健一】

