西前頭筆頭の嘉風(33=尾車)が横綱を連破した。鶴竜(30)を無心に攻め続けて押し出し。前日の白鵬(30)に続いてまた殊勲の星を挙げた。2日連続の金星獲得は戦後17人目で、33歳では戦後2位の年長記録となった。
西の水おけの上に、大きな束があった。37本の懸賞だった。取組前、嘉風の目に入った。もともとは14本の予定。それが、白鵬の休場によって23本も加わった。しかも、結びの一番に繰り上がり。最高の発奮材料だった。前日の13本は片手で受け取ったが「今日は両手でもらえるんだ」。連日の座布団の舞。最高の瞬間を、2日連続で味わった。
全ての力を出し切れた。流れで1度引きかけたが、無我夢中だった前日と違い、そこでわれに返った。「初日はあの引きで終わったんだ」。瞬時に突き、押しに転じた。鶴竜の引きに乗じて一気に攻めた。「横綱に2日続けて勝つのはうれしいけど、今日は内容に満足」。会心の相撲だった。
実は春場所まで、相撲が楽しくなかった。「勝ってもホッとするだけ。負けたら、どれだけ番付が落ちるかと下ばかり見ていた」。そのとき、知人に諭された。「やっている意味あるか? 負けたら、応援する人が指をさして笑う?」と。
師匠の尾車親方(元大関琴風)の言葉もあった。稽古量が落ちて大敗した春場所。3月末の伊勢神宮奉納大相撲で「なんで名前を覚えられたか、思い出せ。上で取ったからだろ?」。
愛夫人(36)の声も染みた。「子どもが見て、のめり込むような相撲を取った方がいいんじゃない?」。
「知人は負ける恐怖心を取り除いてくれた。今できる全力を100%出そうと思えた。親方の言葉で、稽古をやるときはやろうと。嫁さんのつぶやきは本当に効く。いろんな人の言葉で良くなってます」。全力を出す、楽しむ-。この2つを思えた夏場所から、2場所連続で2桁勝ってきた。
昨秋の鶴竜戦、前日の白鵬戦と、金星を呼ぶ家族はこの日も来てくれた。長女梨愛ちゃん(6)と、前日は来られなかった長男凌聖くん(1)。帰り際に2人分の祝福のキスを授かった。「あげ家族を証明したでしょ」。得意げなパパが、秋場所をがぜん、盛り上げた。【今村健人】

