同郷の先輩から貴重な白星を獲得した。石川出身で西前頭5枚目の炎鵬(25=宮城野)が、同郷で平幕の遠藤を押し出しで破った。遠藤は4学年上だが、同じ中高出身で憧れの先輩。角界入り後に目標としていた初顔合わせの一番で、優勝争いで先頭に立っていた相手を引きずり降ろして星を五分に戻した。大関貴景勝と平幕の正代、徳勝龍が1敗を守った。

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濃密な25秒間だった。支度部屋に戻ってきた炎鵬の表情に、疲労感があふれ出た。肩で息をし、振り絞って出した言葉。「体が勝手に動いた。あんまり覚えてない」。自分でも信じられない様子だった。

無我夢中だった。少し右に動いた立ち合い。まわしを取りにくる遠藤の腕を手繰りながら、左右に動いて翻弄(ほんろう)。土俵中央で互いに距離ができると左まわしを3度狙われたが、低い姿勢から両手を伸ばしながらぶつかって阻止。頭を抱え込まれても脱出。再び相手の腕を手繰りながら左右に動き、一瞬の隙をついて土俵際で体勢を入れ替えて押し出した。「無心で当たって砕けろと思った」。人気力士同士による一番で大歓声に包まれたが「聞こえていない。全く」とこれ以上ない高い集中力を発揮していた。

同郷の遠藤を「雲の上の存在」と尊敬する。初めて胸を合わせたのは、高3だった12年の世界ジュニア選手権に出場した時。当時日大4年で世界選手権に出場していた遠藤の準備運動の相手として、突っ張りを受けた。「今まで感じたことがない威力だった」と衝撃を受けた相手を、8年越しにプロの世界で撃破。「信じられない。あんまり実感はない」と、ぼうぜんとした。

9日目は豪栄道との初の大関戦が組まれた。大関どころか、三役以上との対戦も初。「毎日チャレンジャーの気持ちで思い切りぶつかるだけ」。憧れの先輩を破った勢いで、大物食いを続ける。【佐々木隆史】

▽八角理事長(元横綱北勝海) (炎鵬は)ああいう相撲が取れればもっと勝っていく。離れて、スキを見つけて中に入る相撲。押し合って力が入る相撲もいいが、小さい人が動いて勝つのもいい。