映画業界には、旧来「ブロックバスター」という言葉がある。スティーブン・スピルバーグ監督の「ジョーズ」(75年)辺りから始まり、「スター・ウォーズ」(77年)はその典型だった。

 通常興行の系列館を超えた異例の拡大公開。ひと昔前は、超が付く大作があると、そのとばっちりで他の作品の上映劇場が極端に少なくなってしまうことが、ままあった。が、1カ所で多様な作品を選ぶことが出来るシネコンの時代になって、そんな言葉も死語になったように感じていた。

 そこに「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の公開である。六本木ヒルズの9スクリーン全部がこの作品などというシネコンジャック現象が起きて、この言葉を思い出したのだ。

 そんな新ブロック・バスター現象の中で、埋もれがちの他作品にも今年は佳作が少なくないので、紹介しておきたい。

 「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」(30日公開)は、モーガン・フリーマン(78)とダイアン・キートン(69)の顔合わせだ。2人のキャリアは言うまでもないが、実は今作が初共演だ。

 かねてキートンの大ファンだったというフリーマンは「僕の『やりたいことリスト』の中に彼女との共演が入っていた。この映画が決まったとき、まず最初に彼女の名前が浮かんだ」と語っている。

 原作はユダヤ人夫妻の物語だが、2人が演じることで、新たな要素が加わり、作品の厚みが増すことになった。

 一方のキートンは「彼には人を安心させる力がある。『彼がいれば大丈夫』と。そんな風に思わせる存在は希だと思う。とてもやりやすかった」と振り返っている。

 老夫婦が住むのはブルックリンの景観を一望出来るアパートの最上階だ。画家のアレックス(フリーマン)が貧乏時代に背伸びして手に入れたこの部屋に住み始めてから40年。エレベーターは無く、アレックスはもちろん、10歳の愛犬も階段に息が上がるようになってきた。夫の健康を気遣うルース(キートン)は引っ越しを考える。

 めいが不動産仲介業をしていることもあって、夫妻の物件探しが始まる。入札制の「内見ツアー」はそれだけで面白い。中古アパート(日本的にはマンション)の価格が乱高下。ニューヨークの複雑な住宅事情が見え隠れする。

 そこに人種の壁を越えて結ばれた夫妻の回想シーン、愛犬の重病…折々の挿入シーンが間合い良くちりばめられる。「リチャード三世」(95年)の英監督、リチャード・ロンクレインは平凡ともいえる日常を躍動感たっぷりに描く。

 手だれの2人だから、緻密な構成にも余裕がある。キートンの言葉ではないが、安心して見ていられる。喜びも怒りもそれぞれに5段階くらいの表現があって、演技のデパートのようなやりとりだ。文字どおりの見ごたえがある。

 天才チェス・プレーヤーの若き日を描いた「完全なるチェックメイト」(公開中)はトビー・マクガイア(40)が熱演だ。「神の一手」を繰り出すまでの錯乱が生々しい。もろ刃の剣のようなキャラクターを完全に自分のものにしている。

 「マイ・ファニー・レディ」(公開中)は、「ラスト・ショー」(71年)「ペーパー・ムーン」(73年)のピーター・ボグダノビッチ監督の14年ぶりの新作。主人公とコールガールの関係がちょっと変だが、くすっとさせる笑いがちりばめられている。「-眺めのいい部屋売ります」同様に全編をニューヨークで撮影、往年の名作へのオマージュの要素も強く、オールドファンにお薦めだ。

 トム・ハンクス(59)とスティーブン・スピルバーグ監督が組んだ「ブリッジ・オブ・スパイ」(8日公開)は史実に基づいた大作。アカデミー賞の有力候補というか、それ狙いの作品と言ってもいい。実話ものの受賞確率は歴代高いし…。

 劇中では、東西スパイ戦に巻き込まれた弁護士の奮闘がていねいに描かれている。あらためて言うのも何だが、スピルバーグ監督は緩急のタイミングや光と影のさじ加減が抜群にうまいし、壮大な人間ドラマはしっかりと娯楽作品に仕上がっている。【相原斎】