この夏、スポーツ界の深層に踏み込んだ2本の映画が公開される。

 1本はサッカーの王様の若き日を描く「ペレ 伝説の誕生」(9日公開)。

 ストップモーションやスローモーションを多用して、試合場面を劇的に演出する一方で、ブラジルの階層社会やその魂の底にある「ジンガ」を掘り下げる。

 1958年(昭33)のW杯スウェーデン大会で、17歳のペレはいかにしてブラジルを優勝に導き、英雄に成り得たのか-表面的な出来事に止まらず、その内面に踏み込んで解き明かす。

 脚本・監督は、米国のテレビドラマやドキュメンタリー映画で高評価を重ねてきたジェフとマイケルのジンバリスト兄弟。濃い人間ドラマと流れるような試合場面をうまくつないでいる。少年時代のペレの曲芸のような球さばきで冒頭から引き込み、親子愛や友情に挫折と復活、「ペレ」という俗称の由来を巧みに織り込んで、17歳の晴れ舞台までを一気に見せる。練られた構成だ。

 はだしのストリートサッカーで頭角を現したペレは、恵まれた環境で技術を磨く裕福なサッカー少年たちにバカにされながらも名門サントスFCのスカウトの目に留まる。サントスのジュニアチームでは、欧州仕込みのフォーメーションになじめないが、父に教わった「ジンガ」が心の支えになる。

 19世紀にアフリカから連れてこられた奴隷たちが、素手で身を守るためにひそかに磨いた護身術がルーツ。独特な動きと発想で、格闘技カポエイラにも通じるものがある。この滑らかで、したたかなジンガの動きが、欧州流のフォーメーション・サッカーの対極にあるブラジル・サッカーの「核」として象徴的に描かれる。

 代表チームの監督は欧州流のプレーに重きを置き、ペレは異端児扱いのままW杯本戦に臨むことになるのだが、けが人の続出、ホームチームであるスウェーデンの圧倒的な強さの前で、開き直ったペレのジンガが突破口となる。監督もペレの流儀に脱帽する形で逆転優勝は成し遂げられる。今に至るブラジル・サッカーの魅力の根源を、ああそうなのか、と得心させる。

 ペレ役にはセミプロのサッカー・トーナメントでスカウトされたケヴィン・デ・パウラ。ジンガの心を説く元サッカー選手の父にブラジルの国民的歌手セウ・ジョルジがふんしている他、75歳のペレ自身も特別出演している。

 もう1本はすでに公開中の「疑惑のチャンピオン」。こちらはツール・ド・フランスで7連覇を達成したランス・アームストロングの栄光と転落が赤裸々に描かれる。暴かれるドーピングの実態は目を覆うばかりだ。

 脳にまで転移した精巣ガンを克服したアームストロングは驚異的な快走で優勝を重ね、チャリティー活動にも熱心な文字通りの「英雄」となる。が、その裏にはある医師の存在があった。

 チーム全員が点滴針を刺す移動用の大型バスの内部。不意を突くドーピング検査とのいたちごっこ。告発された後も政治力を駆使して法廷やメディアを通して戦う…。裏側はレース以上にスリリングだ。「マイ・ビューティフル・ランドレット」(85年)のスティーブン・フリアーズ監督が、良くも悪しくもアームストロングの人間的な魅力を描き出している。【相原斎】