NHKの朝ドラ「エール」が27日放送で最終回を迎えました。「『エール』コンサート」と題し、出演者たちがNHKホールに集結し、それぞれが歌声を聴かせてくれました。二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、森山直太朗とともに、御手洗清太郎役の古川雄大、藤丸役の井上希美、夏目千鶴子役の小南満佑子、佐藤久志役の山崎育三郎、藤堂昌子役の堀内敬子らミュージカルで活躍する俳優たちも熱唱しましたが、中でも岩城新平を演じた吉原光夫の圧倒的な歌唱力に、ネット上では称賛の声が相次ぎました。

それも当然でしょう。吉原は「レ・ミゼラブル」で主役のジャン・バルジャンを11年から演じているジャン・バルジャン役者です。もともと劇団四季にいましたが、7年ほどで退団。英国への短期留学を経て、仲間たちと小さな劇団を立ち上げ、演出も手がけていました。そして、32歳の時に「レ・ミゼラブル」のオーディションに挑戦し、見事にジャン・バルジャン役を手にしました。

それまでのジャン・バルジャン役は鹿賀丈史、滝田栄、山口祐一郎ら劇団四季OBのスターたちでしたが、当時の吉原はまったくの無名。しかも「レ・ミゼラブル」の歴史で、32歳での主演は最年少記録でした。吉原の初日の舞台を見ましたが、見事に演じきり、「こんな才能が埋もれていたのか」と鳥肌が立つ思いでした。吉原は今回の「エール」がドラマデビューでしたが、岩城という渋い役を演じ、最後には感動を呼ぶ歌唱力で見る人に強烈な印象を残しました。

吉原だけでなく、山崎も古川も東宝ミュージカルを中心に活躍するミュージカルスターですし、堀内は劇団四季で「美女と野獣」のベルや「エビータ」の主演を務め、退団後は三谷幸喜作品で三谷氏に重用されています。小南は「レ・ミゼラブル」でコゼットを演じ、井上も劇団四季で堀内同様に「美女と野獣」でベルに抜てきされ、退団後はドラマ「やすらぎの刻」に出演しました。

ドラマ「半沢直樹」では市川中車、片岡愛之助、市川猿之助、尾上松也ら歌舞伎俳優が大活躍しましたが、「エール」ではミュージカル俳優が存在感を発揮していました。吉原は来年5月に帝劇「レ・ミゼラブル」に主演予定ですし、山崎と古川も来年4月の帝劇「モーツァルト!」にダブルキャストで主演します。堀内も来年1月にミュージカル「パレード」で石丸幹二と夫婦役で共演します。

今度はテレビではなく、舞台で彼らの生の歌声に圧倒されてください。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)