昨年12月、劇団四季がレトルトカレーを発売すると聞いて驚いた。マスク不足の中、衣装部が劇団員のために布製マスクを手作りし、それを一般にも販売したことがあったけれど、「なぜカレーなの!?」というのが正直な感想だった。しかし、販売の理由を聞いて納得ができた。四季が販売するカレーは、稽古場がある四季芸術センターの食堂で一番人気のメニュー。食堂ではメニューの値段は点数表示となっていて、カレーは「100点」だから、通称「100点カレー」として愛されている。

四季では新型コロナ禍で1000以上の公演が中止となり、大きな打撃を受けた。クラウドファンディングを呼び掛けたところ、1万5000人から2億円を超える浄財が集まり、多くの観客に支えられていることを実感した。これまでは劇団員しか食べることができなかった「劇団の家庭の味」であるカレーを一般のファンと共有し、思いを一つにできればという願いから発売が実現したという。

そんな四季の最新作「劇団四季The Bridge~歌の架け橋~」が10日から四季劇場「春」で始まった。「キャッツ」の「メモリー」、「アラジン」の「新しい世界」、「美女と野獣」の「人間に戻りたい」、「ウィキッド」の「自由を求めて」、「ミュージカル異国の丘」の「明日への祈り」、「カモメに飛ぶことを教えた猫」の「自分を信じて」など、約30曲を1時間半ノンストップで歌い踊る。人間賛歌、劇場愛、何よりも演じ続ける覚悟が込められた「ショー」だった。

ニューヨークのブロードウェー、ロンドンのウエストエンドではコロナ禍で舞台公演がストップしている。再開時期は延期に次ぐ延期で、ブロードウェーの「5月には再開」の予定も厳しい状況だろう。四季は都内だけでも「キャッツ」「ライオンキング」「オペラ座の怪人」「アラジン」「ロボット・イン・ザ・ガーデン」、そして「The Bridge」を上演しているが、コロナ禍以前は、チケット入手が困難だった公演も、今は空席も目立つ状況にある。「The Bridge」では11日と12日にライブ配信を行った。初日を開いた直後の公演として異例だけれど、緊急事態宣言が再び発令された中で、見に行きたくとも行けないという人が多いことを考慮したのだろう。カレー発売といい、異例のライブ配信といい、これまでと異なる発想が求められる時期かもしれない。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)