さまざまな人が集い、その人生が交錯する東京・渋谷スクランブル交差点。一見して、一連のシーンが栃木県足利市で撮影されたと思う人はいないだろう。

劇中ではクリスマスイブに恵比寿、渋谷と相次いで爆破テロが予告、実行されていく。実際のスクランブル交差点でテロの混乱、混沌(こんとん)を撮影するのは不可能で、足利にほぼ実寸のオープンセットが建設された。セットと渋谷の街をスキャンし、実際の渋谷の写真とCGを合成した映像だから、渋谷にしか見えない。

ハイスピードカメラで40倍のスピードで撮った爆発の瞬間は、爆風に巻き込まれた感覚を覚える。幾つかの震災を取材し、巻き込まれた経験を思い出し、冷や汗をかいた。圧巻の映像と真っ向からぶつかり、スパークするのが役者陣の重厚な芝居だ。役者人生40周年の佐藤浩市と石田ゆり子、西島秀俊が対峙(たいじ)するシーンは、爆発の瞬間と比肩する圧力がある。

コロナ禍以降、日常が非日常である映画を超えてしまうほど事態は深刻だ。多くの国民が政府を見つめ、未曽有の危機にどう対応していくか、確たる言葉を聞きたいと思っている。容疑者が求める1対1の対話を首相が拒否し、動く世の中を描く今作は観客に今、この時代に生きることを、改めて考えさせる力がある。【村上幸将】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)