孤独な老婦人は施設に入るその日にタクシーに乗って思い出の地を巡る。裕福に見える彼女は、気を許した運転手に壮絶だった半生を語り始める。「パリタクシー」の胸染みる人生賛歌が東京に置き換えられた。

85歳のマダムに倍賞千恵子、運転手に木村拓哉。「重たい内容をとても軽快に楽しく見せた」と原作映画に感銘を受けた山田洋次監督が盤石の布陣で臨んだ。

パリの運転手役ダニー・ブーンはちょっといかつい顔に人生の苦悩がにじむ好演だった。敬意を表したのだろう。まるで同じな茶色のジャンパーを着た木村はやっぱりカッコ良すぎるが、クセを抑え、表情の端々に生活に追われる中年男を確かにのぞかせる。倍賞とのやりとりに山田監督の狙う軽妙さが漂っている。

浅草雷門から見上げた青空を旅客機が飛んだり、日没時のベイブリッジから街の輝きを臨んだり、計ったような光景も美しい。

マダムの回想シーンもていねいに撮られて説得力がある。まるで恋人のように見える終盤の語らいも自然で、彼女が人生の最後に感じたぬくもりがジワッと伝わる。パリの輝きとはひと味違う、きめ細やかなテイストに安心感があった。【相原斎】

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