「第37回向田邦子賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年4月2日撮影)
「第37回向田邦子賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年4月2日撮影)

TBSドラマ「アンナチュラル」で第7回市川森一脚本賞を受賞した脚本家野木亜紀子さんが、3月29日の受賞会見で「今後書いてみたいもの」について語った言葉です。その4日後には「獣になれない私たち」(日本テレビ)で第37回向田邦子賞を受賞。そんな野木さんでも「通らない」という現状を聞き、このジャンルの大ファンとしてはちょっとショックでした。

理由として、まずSFでは視聴率がとれない現状があるようです。野木さんは「SFだから数字がとれないのか、内容なのかは分かりませんが」とした上で、「先日も某局の人に『SFは』と言ったら『ない』と即答されて、『ですよねー』という感じで」と苦笑い。ここ1、2年くらいをざっくり調べてみると、「時をかける少女」「フランケンシュタインの恋」「トドメの接吻」など、ここ数年の民放SF連ドラの平均視聴率は、確かに6~7%あたりでパッとしません。

でもこれ、SFのせいなのでしょうか。「タイムトラベラー」「夕ばえ作戦」「なぞの転校生」など小中学生向けSFジュブナイルの傑作をいくつも生んだNHK少年ドラマシリーズ(72~83年)世代からすると、期待しているテイストやスケール感と違うだけだとも感じます。タイムリープ、変身、パラレルワールドなどの要素をネタ的に演出していて、作風がバラエティーっぽいというか。SFだから描けるキラキラと切ない人間ドラマや、時にはゾッとする風刺など、自由で広々とした見ごたえからは遠いという印象です。

「第7回市川森一脚本賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年3月29日撮影)
「第7回市川森一脚本賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年3月29日撮影)

ここ10年くらいさかのぼれば、「Q10」(日本テレビ、10年)や「なぞの転校生」(テレビ東京、14年)など、毎週夢中で見た作品もあります。

「Q10」は、脚本家木皿泉さんのオリジナルで、2080年からやってきた美少女ロボットと、起動させた男子高校生のSF青春ラブストーリー。「なぞの転校生」は、少年ドラマシリーズの名作(75年)を、映画監督岩井俊二さんが設定を大胆に変えてリメークしたものです。どちらも「こことは違う世界」を生き生きと想像させ、アンドロイドと人間の出会いと別れが圧倒的な青春ストーリーになっていました。

今や1話完結のお仕事ものや事件ものがすっかりドラマの主流となり、1クールかけて真相や人間模様の行方を楽しむSF連ドラは劣勢なのかもしれません。理系偏差値と空想力をコントロールしながら1クールの物語を作り、受け手を引っ張れる作家も、思った以上に限られるという事情もありそうです。

「第7回市川森一脚本賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年3月29日撮影)
「第7回市川森一脚本賞」を受賞し喜びを語る脚本家野木亜紀子さん(2019年3月29日撮影)

そう考えると、SFドラマのDNAを持ち、予算の心配がなく、いい作家が寄ってきて、視聴率不問というNHKの独壇場であるのが現実かも。実際、女子高生が戦国時代にタイムリープする「アシガール」を当てたばかりです。個人的には、視聴率やスポンサー、キャスティングなどさまざまな制約がある民放にこそ、発想が自由なSFジャンルでヒットをかっ飛ばしてほしいと思うだけに、「民放ではまず通らない」現状はもどかしく感じます。

とはいえ、野木さんはあきらめていません。「可能性があるジャンルだと思うので、長い目で見てやっていきたい」。定番のタイムトラベルものではなく、「志としては、見たことのないSFを思い付いたらいいなと思っています」。市川賞と向田賞をダブル受賞した気鋭の脚本家が描きたい世界とは。ちょっとどこかの局でやってくれないだろうか。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)