吉川晃司(52)が全編ほぼ無言の異色の役柄に挑戦する。WOWOW「連続ドラマW 黒書院の六兵衛」(7月放送予定)に主演する。作家浅田次郎氏(66)の同名小説のドラマ化で、幕末期の江戸城無血開城をめぐり、江戸城内に居座り続ける旗本を演じる。セリフが最終話まで一切なく、所作や表情で表現する難役だ。

 原作となった時代小説は12年5月から1年間、日本経済新聞に連載された。信義を貫き、一切口を利かないまま城内に居座る謎の御書院番士の六兵衛と、六兵衛排除を命じられた下級藩士、加倉井の交流を描く。

 ドラマは全6話。六兵衛役の吉川はセリフが5話まで一切ない。最終話のラストで、初めて台本2行分の言葉を口にする。吉川は「設定が面白いです。何百年も続いた武士のあり方を表現するのに、こういう形があるんだなと」と好奇心をくすぐられた様子だ。セリフなしの演技に難しさは「全然感じていません」と言い切り「この役はセリフがない方がいい」と前向きに受け止めている。

 約1年前にオファーが届いた。左側声帯ポリープと診断され、手術するか迷っていた時期だ。「これは手術してもできる仕事だなと思った。このタイミングでセリフがない仕事が来るってこれは出合い。やろうと思った」。手術については「幸いまだ切らなくて済んでいる。切らずにいけるならいこうと思っています」と経過を観察中とした。

 収録は先月中旬から京都で行っている。「しゃべらないからといって顔芝居にするのは嫌なんですよ」。毅然(きぜん)とした侍の所作を習得するため、1月下旬、弓馬術礼法小笠原流の門をたたいた。立ち居振る舞いや回想場面で登場する流鏑馬(やぶさめ)の稽古に励んでいる。収録休日や収録現場でも空き時間に練習している。

 高校時代、水球選手として世界ジュニア選手権大会日本代表に選出された。今もボルダリングや乗馬などスポーツはしており、体力に自信はあったが「ここまでキツいと考えていなかった」。ライブステージで2メートル以上の高さにあるシンバルを体を回転させながら蹴るパフォーマンスを得意にしているが「比べるとシンバルキックはハードじゃない」。肉体はさらに引き締まり、ウエストはこぶし2つ分痩せた。それでも「毎日練習していますけど、まだダメ」と貪欲だ。「やっていること全部が画面に映る。礼法と流鏑馬が身に付けば、表情は変わらないけど、おのずとお芝居が変わっていく。前に進んでいくと思っています」。

 ドラマ、映画を通じて17年ぶりの主演作となる。「あまり関係ない。それどころではない。礼法と流鏑馬に全て持っていかれています」。稽古の苦闘と並行して進む収録は、来月上旬まで続く。【近藤由美子】