あなたは「血管のトリプルリスク」という言葉を耳にしたことがありますか?生活習慣病の代表格である高血圧、高血糖、高血中脂質は、血管の劣化を招く危険因子として知られる。それらは単独のリスクではなく、それぞれにインスリンの働きを悪くする共通項がある。そのため、3つが連鎖して危険性を高めるという。医学博士の岡部正医師(岡部クリニック院長)は「健康診断の数値がよくても、健康とは言い切れない」と警鐘を鳴らす。
トリプルリスクの認知度、1割未満
「メタボリック症候群」が提唱されてから、10年以上が過ぎた。「メタボ」の略称でその名はすっかり定着したが、その一方で生活習慣病の患者数は増加し続けている。厚労省の調査によれば、糖尿病が約1000万人(平成28年国民健康・栄養調査)、高血圧が約1011万人、脂質異常症が約206万人(ともに平成26年患者調査)だという。
これだけでも問題だが、さらに怖いのは、この血圧、血糖、血中脂質のいずれかが高い場合、他の2つも連鎖して悪くなる可能性が高まることだ。これが「トリプルリスク」だ。しかしその認知度は低く、岡部医師は「95%の人が知らない状態。生活習慣病患者数が増加している背景には、その発症リスクやメタボに対する正しい理解が得られていないということがあると考えます」と話す。こんな現状を改善しようと今年2月、「トリプルリスクを考える会」が発足した。
複数重なると重篤な疾病発症率が増大
「高血圧」「高血糖」「高血中脂質」の3つの症状には、「インスリンの働きが悪くなる」という共通の要因がある。インスリンは血糖値を下げる働きがあるが、この働きが悪くなると、それを補うために膵臓(すいぞう)でたくさんのインスリンが分泌される。その結果、腎臓がナトリウムの再吸収を促進し、血圧が上がる。同時に、肝臓で中性脂肪の合成が盛んになって血中脂質が上昇する。これがまさに〝負の連鎖〟のメカニズムだ。さらに、その「トリプルリスク」を放置したままにしておくと、糖尿病や脂質異常症につながるだけでなく、狭心症や心筋梗塞など、命のかかわる重篤な疾病に陥るリスクが高まってしまうから厄介だ(グラフ参照)。
血管劣化招く危険3因子の同時ケアが必要
同会が今年1月、30~60代男女を対象に行った現代人の健康と食生活に関する調査では、回答者の半数が「メタボ=太っている」という誤ったイメージを持っていた。診断基準は腹囲が指標になっているため、オーバーしていなければOKと思われがちだが、実際は高血圧や高血糖、脂質異常の数値も大きく関連する。さらに健康診断を受ける人の過半数が、直前に体調を整えて臨む「駆け込み派」であることも判明。身に覚えがある読者も多いだろうが、そんな測定結果では、リスクは隠れてしまうことが多いのだ。
そんな中、岡部医師は「メタボや生活習慣病の先にある重篤な疾患を防ぐためには、このトリプルリスクを3つ同時にケアすることが必要」と訴える。しかし、それを実行しているのは約1割に過ぎない。その意識改革こそが、現状打破の最重要点だといえるだろう。
◆岡部正(おかべ・ただし) 78年慶大医学部卒。亀田総合病院副院長を経て、96年東京・銀座に岡部クリニックを設立。05年テレビで初めて「メタボリック症候群」を取り上げ警鐘を鳴らした。医学博士。日本病態栄養学会評議員。日本糖尿病学会認定専門医・指導医。日本肥満学会会員。
あなたは何タイプ?「タイプ別食事改善法」でチェック
トリプルリスクを回避するには具体的にどうすればいいのだろうか?岡部医師は「運動と食事、ストレスをためないこと」という。食事では「塩分」「糖分」「脂肪分」の3つを同時にケアすることが大事。だが、多くの人にとって食生活の改善は難しく、長続きしないもの。そんな人の特長は3つに分類できるという。さあ、あなたはどのタイプ?
「塩分」「糖分」「脂肪分」まずは食生活の改善から始める
青森、長野、那覇で啓発プロジェクト始動
今年4月、「トリプルリスク啓発3都市プロジェクト」が青森市、長野県、那覇市で始動した。
食塩購入量首位の青森市は、県全体では「だし活」を推進、市はバランス食と野菜たっぷりの食事を啓発している。長寿首位奪回を目指す長野県は、平成27年に女性1位、男性2位でダブルVを逃し、「信州ACEプロジェクト」を展開中。那覇市は食用油購入量首位で、「あぶら控え目」活動を展開。ヘルシーガイド「健康なは21(第2次)」を発行している。
プロジェクトではリスク解消メニューを各エリアごとで提供したり、市民セミナー開催、トリプルリスク啓発Webサイト:triple-risk.jpも展開している。