【ストックホルム共同】スウェーデンの王立科学アカデミーは7日、2026年のノーベル化学賞を硤合憲三・東京理科大名誉教授(76)とフランスのパリ・サクレー大のアンリ・カガン名誉教授(95)に授与すると発表した。医薬品や香料など化学品の製造には欠かせない「不斉合成」の新たな手法を開発した。
授賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒反応の発見」。日本の個人や団体がノーベル賞を受賞するのは3年連続。 発表記者会見に電話で参加した硤合さんは「人生で最もエキサイティングな日だ」と喜びを語った。自身の成果について「非常に誇りに思う」と述べた。埼玉県志木市の自宅前では「さらに研さんを深めたい」とした。
スウェーデン王立科学アカデミーからの電話を受けた時は「家の近くに買い物に出ていた」という硤合さん。「生命をもっと理解するために、この分野の研究をさらに前へ進めなければならない」と強調した。
物質には右手と左手のような関係にある「キラリティー」という性質がある。成分が同じでも「右手型」と「左手型」では性質に大きな違いがある。硤合氏は、右手型か左手型の片方だけ自己を複製して増える「不斉自己触媒反応」を初めて実現した。こうした反応は「硤合反応」とも呼ばれている。
アミノ酸にも右手型と左手型があるが、生物のタンパク質を構成するのは左手型だけで、なぜ非対称になるのかは長年の謎だった。一方に偏る状態を「ホモキラリティー」という。2人は生命の起源にも関わるこの謎を解く手掛かりを発見した。
広島市周辺が発祥の「硤合」は非常に珍しい名字で、名字由来netによると広島県に約20人、埼玉県に約10人だという。「硤」は谷間のことで、「硤合」は山と山が合わさった谷間を意味する。
日本の化学賞の受賞は、昨年の北川進京都大特別教授に続き2年連続で10人目。他の分野も含め、個人では計31人になった。
授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。賞金は1200万スウェーデンクローナ(約1億9000万円)を2氏で均等に分ける。
◆硤合憲三(そあい・けんそう)1950年(昭25)5月3日、広島県生まれ。74年東京大理学部卒。79年東大大学院博士課程修了、理学博士。米ノースカロライナ大チャペルヒル校博士研究員、東京理科大講師、助教授などを経て91年同大教授、2017年同大名誉教授。12年紫綬褒章、23年瑞宝中綬章、25年日本学士院賞。76歳。
◆ノーベル化学賞授賞理由 互いに鏡に映したような関係にある2種類の分子のうち、一方だけを作る「不斉有機合成」で、「自己触媒作用」を利用した反応を開発した。硤合氏は一方だけが生じうる化学反応を設計したことを発表し、実際に2つの鏡像体のうち一方だけを生成する反応を実現した。生命の化学的な非対称性が生じる仕組みの理解を進め、医薬品製造のための化学反応の設計にも大きく貢献した。
▼ノーベル化学賞 ダイナマイトの発明で知られるアルフレド・ノーベルの遺言により1901年に始まった。「前年に人類に最も貢献し」「最も重要な化学の発見をした人」に贈るのが遺言だが、実際は数十年前の業績で選ばれることも多い。日本からは過去に福井謙一(81年)、白川英樹(2000年)、野依良治(01年)、田中耕一(02年)、下村脩(08年)、鈴木章、根岸英一(10年)、吉野彰(19年)、北川進(25年)の9氏が選ばれた。
◆理化学研究所の袖岡幹子環境資源科学研究センター長(有機合成化学) 硤合憲三氏の発見は、なぜ生命が右手型と左手型の分子のうち片方だけを利用しているのかという生命の根本的な疑問に答えるヒントを示したものだ。最初にあった自然界のわずかな偏りが増幅され、体を作るタンパク質や糖が生まれてきたのではないか。こうした基礎的な側面に賞が贈られるのは大変うれしい。医薬や香料、農薬などを合成するときにも非常に大事な原理になるはずだ。
◆科学技術振興機構の工藤研一知的財産マネジメント推進部企画課長 「不斉合成」は現在の創薬でも重要な技術だ。硤合憲三氏が開発した手法は、分子自身が、自分と同じ型の分子ができる反応を自ら促すという不斉合成の中でも非常に特徴的なものだ。唯一無二のものとして研究者の間でも知られてきた。医薬品は分子の立体的な形によって作用が異なることがあり、必要な分子だけを作り分けることが求められる。基礎研究でありながら、創薬にもつながる意義の大きな成果だ。(共同)

