★首相・高市早苗が国連で訴えた「敵国条項削除」は80年前の悪夢を想起させ、戦後の日本の国際社会への復帰の努力と関係当事国の態度を硬化させてはいまいか。敵国条項は国連の「国連憲章」に、第2次世界大戦の敗戦国(日独伊を始めハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランド)を対象とした規定だ。ただ日本は1956年に国連加盟、他国も国連に加盟しており、その段階で死文化している。95年の国連総会において「敵国条項は既に意味を失っており、憲章から削除すべきである」とする決議案が採択されている。

★ところがそれをわざわざ、日本の保守派の首相が国連に乗り込んで来て削除要請の演説は「寝た子を起こす行為」(国際機関関係者)となる。外務省は承知の上で演説に盛り込ませたのか。国連憲章改正はハードルが高く、加盟国の3分の2以上の賛成だけでなく、安保理常任理事国5カ国(米・英・仏・中・ロ)すべてによる批准が必要。中・ロ関係が悪化している中、削除は遠のいたと見るべきだろう。高市がわざわざ削除を言うのは高市政権発足後、軍拡に懸念を示す中国が敵国条項の存在をちらつかせたからだ。高市はそれにくぎを刺したくて挑発に乗った。いのちの党副代表・伊勢崎賢治は会見で「日本政府は死文化しているスタンスで来たのに『まだ有効』ってことを自ら言っちゃった。僕はズッこけた。死文化のまま、放っておけばいい」と解説した。

★敵国条項が死文化しているのは、もう戦争行為をしないと思われているからで、削除を強く求めれば「また何かしようとしているのではないか」と勘繰られるのも当然だ。長年、専守防衛を内外に示してきた日本は、遠洋まで行く必要がないために空母も持たなかった。今は護衛艦を改修して空母を持ち、長距離ミサイルを保有する。普通の国になるためには周辺国に脅威を抱かせず、友好的な環境を作ることだ。日本の歴代内閣、ことに高市内閣は米国との同盟関係という名の依存度が高いが、米国は高市政権が敵対視する中国、ロシアとも友好的で対話を絶やさない。前外相・岩屋毅が中国で王毅(ワンイー)外相や何立峰(ホー・リーフォン)副首相と会談しても関係改善のチャンスと見ず、官房長官・木原稔は「民間経済団体の動向なので、逐一について政府としてコメントをすることは差し控える」とした。やる気がないとしか思えない。(K)※敬称略