女性記者へのセクハラ疑惑報道を受け、財務省の福田淳一財務次官(58)が電撃辞任表明したことは、財務省だけでなく、安倍政権にも大きな打撃を与えた。同省事務次官の任期中の辞任は、旧大蔵省接待汚職以来20年ぶり。女性記者に名乗り出て調査に協力するよう求めるなど、最強官庁の高圧的な対応に批判が拡大する中、かばい続けた麻生太郎財務相の責任は免れない。麻生氏は首相の盟友で安倍政権を支える屋台骨だけに、首相は難しい判断を迫られそうだ。
辞任発表は電撃だったが、遅きに失した「更迭劇」だ。財務省は省ぐるみで福田氏を守り続け、世の批判にさらされた末、福田氏辞任に追い込まれた。森友学園をめぐる文書改ざん問題が解決に至らない中、事務方トップが、セクハラ疑惑報道で辞任。行政への姿勢が問われている中、緊張感のかけらもない事態だ。
関係者によると、新潮の報道が出た今月12日以降、自民党上層部でも「辞任やむなし」の空気が拡大。セクハラを嫌う公明党は、なおさらで、安倍晋三首相が渡米する17日までに「次官辞任で決着」と、みられていた。しかし、首相から更迭方針を打診された麻生氏は、事実関係の調査を優先。首相の盟友でもある麻生氏の「ご意向」に、福田氏の更迭論はしぼんだ。
局面が変わったのは、財務省が報道各社に、被害を受けた女性記者に名乗り出て調査に協力するよう求めたこと。被害者保護の観点を無視した対応に、世間の反発が拡大。海外メディアの報道も広がり始めた。
しかし麻生氏は、この日の衆院財務金融委員会でも聞き取り調査に関し、「週刊誌には(被害を)言って、守秘義務を守る弁護士には言えないのは理解できない」と主張。矢野康治官房長も「名前を伏せておっしゃるのが、そんなに苦痛なのか」と、無神経な答弁を連発。「財務省の暴走」(野党関係者)には与党の我慢も限界を超え、自公両党の幹事長も福田氏本人の説明が必要との認識を表明。その矢先の辞任劇だった。
財務省は森友問題で来月にも関係者を処分する。それまでに福田氏が次官を辞めれば、次期次官にも責任が及ぶ。与党関係者は「新体制や麻生氏の責任回避へ、福田氏は『防波堤』になる必要があった」とも分析。この日女性問題に関する「文春砲」で辞職した米山隆一新潟県知事の対応も、影響を与えた可能性がある。
文書改ざんで佐川宣寿氏が国税庁長官を辞任して1カ月あまりで、今度は福田氏が辞任。省内では「情けない事態だ」(キャリア官僚)と落胆の声が広がり、最強官庁の威光は失墜寸前だ。今後、福田氏を守り続けた麻生氏の責任論は避けられない。野党は、麻生氏が辞任しなければ国会審議に応じないと、与党を揺さぶり始めた。しかし麻生氏が辞めれば、安倍政権の屋台骨が揺らぐ。首相の政権運営は急速に不透明感を増してきた。【中山知子】