冬を代表する星座オリオン座の1等星で「冬の大三角」のひとつベテルギウスに異変が起きている。もともと0・0等から1・3等まで明るさが変わる変光星だが、この冬はこれまでにない2等星レベルにまで暗くなっている。小学4年の理科の教科書でも「ちかいうちに爆発してなくなるかもしれない」星として紹介されているベテルギウスだけに、超新星爆発を起こす予兆では…と話題になっている。

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国立天文台の縣(あがた)秀彦准教授(天文情報センター・普及室長)によると、天文台にも問い合わせが相次いでいる。「冬の夜空によく見えて、形も分かりやすいオリオン座の中でも明るく目立つベテルギウスが、今までにないほど暗くなっている。超新星爆発するんですかと期待を込めて問い合わせてきます」。

年老いた赤色超巨星のベテルギウスは不安定で、明るさが変化する変光星。明るくなると0・0等、暗くなると1・3等、普段は0・4等で、9番目に明るい恒星だ。それがこの冬、1・6等まで暗くなっている。「四捨五入しますから、今の明るさは1等星ではなく2等星です。21個ある1等星で一番暗くなっただけでなく、全天で30位近くにまでランクダウンしています」(縣准教授)。

周期性から今月15、16日に底を打つと予測する研究者もいたが、依然暗く、回復の兆しはないという。縣准教授は「過去のベテルギウスの振る舞いを超えている、ちょっと程度が違うと言えます」と話す。小学校で「ちかいうちに爆発してなくなるかもしれない」と教わる星だけに、天文ファンが期待する超新星爆発は果たして起こるのか。

「星の寿命は重さで決まり、重い星ほど短くなります。太陽の20倍の重さのベテルギウスの寿命は1000万年で、今はだいたい900万歳。科学的には、年を取ると、風邪をひきやすいとか誤飲しやすいとか肺炎になりやすいというレベルの話ですが、90歳を超えたら心配です。ただ、数年のうちに起こるのか、100万年後に起こるのかは誰にも分かりません」(縣准教授)。

超新星爆発は、藤原定家が「明月記」で記した1054年の「SN1054」、1604年の「ケプラーの新星」が知られるが、「SN1054」は地球から7200光年、「ケプラーの新星」は1万3000光年だった。これに対し、ベテルギウスは640光年。人が天体観測するようになってこれほど近くで起こったことはない。超新星爆発すると、ベテルギウスは金星(マイナス4等)より600倍以上明るいマイナス11等、半月の明るさになり、昼でも見えるようになる。その輝きは約100日続くが、やがて暗くなり、4年後には6等星となって肉眼では見えなくなるという。

夜空を見上げ、年老いて何かが起きているベテルギウスの姿を確かめてみたい。【中嶋文明】

◆ベテルギウス 「巨人の脇の下」の意味。ギリシャ神話に登場する狩人「オリオン」から名付けられたオリオン座の右脇(夜空を見上げた場合、左上)に位置する。太陽の位置に置くと、端は木星の軌道近くまで達するほど巨大な赤色巨星で、質量は太陽の12~20倍。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンと「冬の大三角」を構成する。同じオリオン座の1等星リゲルが白く輝くのに対し、赤く輝くことから、源氏の白旗、平家の赤旗に例え、日本では古来、「平家星」と呼ばれた。

◆超新星爆発 質量が太陽の8倍以上の恒星が寿命を終えたときに起きる現象。太陽と同程度の質量の恒星は数億~数百億年、光り輝いた後、惑星状星雲となり、最後に地球と同程度にまで縮小して高密度の白色矮星(わいせい)になるのに対し、8倍以上の恒星の寿命は数百万~数千万年と短い。自分の重さに耐え切れなくなってつぶれ始めると、0・7秒後に激しい爆発が起こり、8~20倍の質量の恒星は中性子星に、20倍以上の質量の恒星はブラックホールになると考えられている。その際、ガンマ線を噴出するが、ベテルギウスの場合、自転軸の角度(ビームの角度)がずれているため、地球に降り注ぐことはないとされている。

◆星の等級 紀元前129年に古代ギリシャの天文学者ヒッパルコスが星の明るさを6等級に分類したのが始まりとされ、最も暗い星を6等星、特に明るい星を1等星とした。後に1等星は6等星の100倍の明るさと判明。1等級上がると2・5倍明るくなる計算で1等星の2・5倍明るい星は0等星、0等星の2・5倍明るい星はマイナス1等星と表現される。太陽はマイナス26・7等星で、満月はマイナス12・6等星。