「赤塚さん、明日来なくていいから」。先方から一方的にしゃべって、携帯電話を切られた。かけてきたのは、翌日の取材を予定していた東京湾のある船頭だった。

ここだけ切り取れば、何とも無愛想な対応だと思われるだろう。40代で若死にしてしまった彼なりの親切心でもある。出船中止の連絡が来るのは決まって午後7時すぎ。NHKのニュースが始まった直後だった。

今でこそインターネットが発達して、スマホをのぞけばいつでもどこでも簡単に気象情報が得られる。およそ20年ほど前、漁業関係者は午後7時にNHKニュースが放送される直前の気象情報を必ず見ていた。今でも多いはずだ。これが、翌日出船できるかどうかの判断材料になっていた。天気図を自分の目で見て確認した上で出船不可能とみたら、予約を入れていたお客さんに「お断り」の連絡をしていた。

その船頭からは「赤塚さん、天気については2つだけ覚えておけばいい。天気は西から変わることと、低気圧は高気圧の縁(へり)を時計と反対の左回りに進むから、その向きに風が吹くこと」と、教えてもらった。

確かに西高東低の気圧配置を見れば、北か北西の冷たい季節風が吹く図式が分かる。もっと早くに理解していれば、中学時代に苦手だった理科も少しは好きになれたろうに。そんなことを思い出しながら、すっかり習慣化した今も気象情報をチェックしている。【赤塚辰浩】