心臓弁膜症となると、これまでは「人工弁置換術」が主流でした。特殊カーボン製の機械弁、もしくはブタなどを使った生体弁です。しかし、今日では「人工弁はいやー!」と声を上げる患者さんが多くなっています。私が心臓弁膜症で「自己心膜を使用した弁形成術」の「尾崎式」を開発したとあって、日本各地から声を上げて、尾崎式手術を求めて患者さんが来てくださいます。

 70代のD男さんもその1人。数年前、D男さんは心筋梗塞で救急搬送され、A大学病院でバイパス手術を受けました。その後、定期的にチェックを受け、今度は「心臓弁膜症」の1つ、「僧帽弁閉鎖不全症」が見つかりました。しばらく様子を見ていたのですが、ある日の診察時に、主治医から「そろそろ手術をしましょう。私どもでは人工弁置換術を行っています」と。

 D男さんは様子を見ていた期間に、心臓弁膜症の手術がどのように行われるのか、しっかり調べていたのです。そこで、患者としての意見を発しました。「自分自身の心膜を使った手術があるということなので、私はそれを受けたいのです。術後は薬を飲む必要がない。それもありがたいからです」。

 主治医は自分たちの手術に固執することなく、「それでは紹介状を書きましょう」と言ってくれたそうです。私にとっても患者さんにとっても、立派な主治医だと思います。そして、D男さんは紹介状を持参して、私の診察室をノックされたのです。(つづく)

(取材・構成=医学ジャーナリスト松井宏夫)

 ◆心臓弁膜症 心臓には僧帽弁、大動脈弁、三尖(さんせん)弁、肺動脈弁の4つの弁があります。その心臓の弁に問題が生じ、正常に機能しなくなるのが心臓弁膜症。その症状は「息が切れる」「動悸(どうき)」「呼吸が苦しい」「夜寝ると苦しい」「体がむくむ」「疲れやすい」など。推定患者数は200万人で、年間約1万5000人が手術を受けています。