東京家政大学人文学部心理カウンセリング学科の岡島義(いさ)准教授(臨床心理士・専門行動療法士・産業カウンセラー)は、こう話す。「カウンセラーもお笑い芸人と同じで、相手の反応を見ながら話をしている。相手とちょっと距離を取るには、『常に環境にアクセスする』がキーワードです」。

例えば交換した相手の名刺をみながら、「この紙の材質は変わっていて、ツルツルしているな」というふうに五感を味わう。これが「環境にアクセスする」こと。自分にだけ目がいくのを、外の環境に向けることにつながるという。いずれにせよ、自分ひとりでもんもんとしていることは良くない。

「うつになった時はなぜ自分が、と不幸せに感じることが多いが、後にあの経験が良かったと思うことができれば、それは『幸せ感』だ。落ち込んだ経験でその気持ちが理解でき、あの経験は良かったという評価に変わる。うつになったことも決してダメじゃないって考えられる」

前向きにとらえることが、生きづらさを軽くする。

「気持ちが落ち込むということは、基本的にSOSが出ていると考える。そのまま頑張り続けると体がもたない、危険だという意味です。この時点で止まれたことが、逆に良かったと思いましょう。いったん立ち止まって、今度はSOSが出ない程度のやり方を自分でつくっていくことが大切です」

このプロセスは、アスリートが立ち直る姿に重ねられるという。「ケガをして絶望視された五輪選手が、ふたたびひのき舞台に立とうとする時、昔のようなパフォーマンスを求めることは捨てて、今の能力を最大限生かそうとする。心の健康を害した人もそれと同じように、昔のように戻ることは難しく、『あの時はこうだった』と考えがち。でも、今は別の人間になった、これから最適な人生を送るためにどう人生を組み立てていくか、が大事です」

SOSを受け止め、次はどうするかをカウンセラーと一緒に考えることが大切だ。