前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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前回説明した「TURP(経尿道的前立腺切除術)」では、前立腺全体の体積が80ミリリットル程度以下の場合に選択されます。一方、それより大きくなった前立腺肥大症に効果的なのが、前立腺をくりぬくように切除する「経尿道的前立腺核出術」です。その術式の1つに電気メスを使用する「TUEB(経尿道的バイポーラー電極前立腺核出術)」があります。

TUEBは、尿道から切除鏡を入れ、「バイポーラー(双極)」という電気メスで前立腺の組織を外腺(前立腺の最外側)を残してくりぬきます。それを、膀胱(ぼうこう)内で細かく砕いて吸引するのです。手術時間は約2時間、入院期間は3~5日間程度です。

以前、TURPで使われた電気メスは「モノポーラー(単極)」で、対極板を太ももに貼っていました。つまり、電気メスからの電流は組織を経由して体内を流れるため、手術の際、膀胱内で循環させ切除した組織片などを流し、内視鏡の視野を確保する「灌流(かんりゅう)液」は、非電解質で通電しないものにする必要がありました。また、灌流液により血圧低下や吐き気といった低ナトリウム血症を起こすことがありました。

一方、TUEBで使用するバイポーラー電気メスでは、内視鏡内の近接する対極に通電できるため体に対極板を貼る必要はなく、灌流液に生理食塩水などの電解質溶液を使用できます。なお、現在ではTURPでもバイポーラー電気メスによって、非電解質による低ナトリウム血症が発生することはまれになりました。

また、経尿道的前立腺核出術でレーザーを使う術式として、「HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術)」があります。麻酔をかけた後、尿道から内視鏡を挿入。灌流液には生理食塩水を使用します。前立腺の内腺(尿道を取り囲む部分)と外腺の境目にレーザーファイバーを入れ、ホルミウムレーザーというレーザーを発射、肥大した前立腺をくりぬくように切除するのです。

くりぬいた前立腺は数回に分けて膀胱に移動させ、そこで砕いた後に最後に吸引します。この手術では、核出重量が100グラムを超える巨大な前立腺肥大の治療が可能です。手術時間は2時間強、入院期間は3日程度です。なお、精液のもとになる前立腺液を作る前立腺の内腺をくりぬくので、射精障害が起こることが多いです。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。