体操の世界選手権は4日にドイツ・シュツットガルトで開幕する。男子は昨年大会で中国、ロシアに敗れる団体総合3位に甘んじた。差が見られたのは技の難度の演技価値点(Dスコア)よりも出来栄え点(Eスコア)。アテネ五輪金メダリストの米田功氏(42)に最新の採点傾向を聞き、日本の東京五輪を見据えた展望、減点されない着地を実演付きで解説してもらった。これを読めば、日本浮上の鍵が見えてくる、直前ガイドです。【取材・構成=阿部健吾】

■4日から世界選手権

採点傾向について語る米田功氏(撮影・たえ見朱実)
採点傾向について語る米田功氏(撮影・たえ見朱実)

日本がリオデジャネイロ五輪の団体総合で頂点に立ってから3年。まずはその時に何が評価されたのか、から説明します。

日本の体操=内村航平の体操でした。その特徴は技の完成度、その圧倒的な感じがずばぬけて表面化されていたことです。鉄棒の離れ技のカッシーナの宙に浮く高さ、ピタッと止まる着地、これが抜群に優れていました。世界のスタンダード、世界のお手本が内村選手だったのです。

この採点傾向の流れの発端は、14年世界選手権にありました。団体総合でDスコアの難易度を上げに上げた中国が日本を0・1点差で勝った。ここで論争が起きます。果たして中国の演技は美しいのか。体操は英語では「Artistic Gymnastics」。芸術なのです。技の難しさと正確性、このバランスを再考した結果、その後は内村選手の体操が評価され、それが日本の評価になった。

ではいまは? 内村選手が個人総合王者ではなくなった17年以降、その座を争うのが中国、ロシアです。特徴は当たり前の正確さを追求していること。着地であればしっかり止める、足は閉じる、腕は伸ばす。何か特別な美しさを発揮しているわけではなく、ひたすらに丁寧。技の完成度ではなく、つま先を伸ばします、足先は全く乱れない、指先の動きまで丁寧に動いてます、決めるところはきっちり決める。それが評価されている。内村選手の演技はまねできないですが、丁寧な動きならできる。

Dスコアが上がりすぎ、Eスコアがおざなりになった時期があり、日本が評価され、そしていま-。これは体操の規則にあらためて忠実に減点しようという採点の動きであり、何も特別なことではありません。技が難しければ、何となく目をつぶっていたわずかな乱れをもう1度見つめ直した結果です。日本は内村選手の存在感の大きさから、その基本的な技術がおろそかになっていた。それを思い知らされたのが昨年の世界選手権でした。



では、Eスコアにおける良い演技、悪い演技はどう見分けるか。6種目共通にある着地で見ていきます。世界ジュニア王者の岡慎之助選手に実演してもらいます。2回転ひねりからの着地です


(1)まずひねっている時に足が閉じています。割れておらず、交差もしていない。

(2)腰が曲がっておらず、体が真っすぐに伸身しています。

(3)目線を見てください。着地姿勢へ向けて先取りをしており、準備ができています。

(4)着地の前に回転力を抑え体を伸ばして着地体勢に入っています。

(5)上体をしっかり上げて、視線も上がっています。

【6】上体が前に倒れ、何とかこらえています。これは足が止まって0・3点の減点。実はピタッと止まるより、小さく1歩踏み出した着地の方が0・1と減点幅は小さく、止めれば高得点ではなくなっています。04年アテネ五輪団体決勝、「栄光の架橋」の実況で知られる冨田の前体重でこらえた着地も、いまの厳密な規則であれば減点されてしまいます。


次に着地の足も見ます。

(7)は着地で開いた足が肩幅以内で、つま先を動かさずにかかとがそろえられています。これが減点なし、完璧です。

【8】は足が肩幅以内ですが、両足の間隔が広すぎてかかとがそろえられない。これは0・1点の減点です。少し前なら間隔の開きを足を少し浮かして調整し、かかとをそろえれば減点なしもあり得ましたが、いまは厳しく採点されます。


では、最後に世界選手権の展望です。この1年、日本代表も基本を徹底して見直してきました。それがどのように評価されるのか。ただ、世界も同じように強くなっているので、1年間急に取り組んだから金メダル狙えます、というレベルではない。やはり強いのは中国、ロシアですが、リオでは一番高い所に上ったのは日本なので、1年、2年で急に逆転されているかというとそうでもない。そんなわけはない。底力、層の厚さ、競争が激しいものがある。自信を持つことが重要になります。今年の世界選手権で横並びの評価は得たい。そうすれば、東京五輪が楽しみになります。


世界の強豪も紹介します。

中国からはまずは鄒敬園(21)。平行棒のスペシャリストでDスコアだけでなく、Eスコアもずばぬけている。倒立姿勢の美しさ、正確性。昨年大会の種目別を圧勝しています。玄人じゃないと分からない動きではないので、1人だけ次元の違う体操を見てほしい。

もう1人は肖若騰(23)。17年大会の個人総合覇者です。6種目通じてハイレベル。雑技団的とも言えます。2人を教えているのは、アテネ五輪あん馬金メダリストの滕海浜です。当時からすごくきれいな演技をする選手で、その選手が育てていることも興味深いです。

ロシアからは昨年の個人総合優勝のアルトゥール・ダラロヤン(23)です。世界の評価が一気に上がりました。腕の出し方、着地もぴしっと丁寧にやる。特に足が全然開きません。膝下から足先にかけて隙間がない。タイツがピタッとつきますね。骨格的にも恵まれています。