東京五輪・パラリンピック300回連載

正しく恐れ、正しく行動できれば五輪は開催できる

新型コロナウイルス感染拡大で、1年延期された東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの開催へ向けた各方面からの声を4回連続で掲載する最終回は医療者編です。ワクチンや新薬開発が急ピッチで進められているが、五輪開催をめぐり、医療界や関係者の間では、意見が割れている。医療現場の最前線に立つ医師はどう見ているのか。循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師(38)に聞いた。【取材・近藤由美子】

循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師(撮影・近藤由美子)
循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師(撮影・近藤由美子)

-来年夏に東京五輪は開催できると思いますか

医学的にはできます。スポーツイベントは平和の象徴でもあるので、疫病がはやっている時にやるべきではないと思うし、被害甚大で国を壊してしまうのであれば、開催できないと思います。コロナ対策として今、やれることは分かっています。守り方はあります。一方、亡くなる人が増えている可能性がある。その場合は観客削減計画を立てないといけないですが、このまま収まっていくなら、通常開催でいいと思います。

-新型コロナウイルスの解明はどれくらい進んでいるのでしょうか

1~3月までは相手の顔つきをうかがう期間でしたが、今はウイルスの存在自体、9割方は解明されているのでは。糖尿病や喫煙など、分かっているリスク要因はあります。ほとんどが軽症で治っていくのが分かっているので、熱が出るなど症状が出た人の周りを、つぶさにつぶしていけるだけのPCR検査の個数が整っているだけで十分です。今の段階では足りています。

-出場選手に対し、PCR検査は有効なのでしょうか

PCR検査は取り逃がしが多い検査で、コロナ陰性の中に陽性者もたくさんいる。3割が外れています。そのほか、1%がコロナじゃないのにコロナと判定されてしまう。例えば、罹患(りかん)率0%として1億人を検査したら1%外すので、100万人がコロナと判定されてしまいます。誤認逮捕のようなものです。選手はかかっていない人がほとんど。国の半分がコロナにかかったとなれば別ですが、コロナを持っていない集団には、意味がない検査です。

-医学的にみて、五輪開催にワクチンが絶対条件なのでしょうか

開催の絶対条件ではないですが、今後、必要だと思います。ワクチンができれば、コロナで亡くなる方は必ず減る。インフルエンザのワクチン同様、特に死亡率が上がる65歳以上の方や持病がある人には有効です。ワクチンが作られるまで、通常だと数年はかかります。

-アビガンや認可されたレムデシビルはコロナに効くデータはあるのですか

アビガン(ファビピラビル)については今のところだと、著しい効果が出たというデータはありません。レムデシビルについても同様です。効き目に対して副作用がありますので、まだまだ注意が必要です。なので、絶対的な薬は今のところありません。

-海外からの選手や観客へのコロナ対策はどう取るべきですか

各国で感染対策して、自国の感染率を下げることがアスリートを守るためにも大事。感染対策してコロナを抑え込んだ国から出られるようにするなどの対策が必要です。選手の入国後の隔離は、試合に出る状態でなくなってしまうので現実的ではありません。水際対策としては、今まで通り、しっかりと検疫をやることが必要です。

-コロナ以外に対策を立てるべきことは

性感染症とか、選手村は感染症に関しては結構でてきます。選手の体調管理は難しい。極限まで追い込んでいるので、免疫力がむしろ一般人より劣っている選手もいます。リオ五輪の時もジカ熱問題がありましたが、蚊を介した感染症などが日本に持ち込まれ、広がることも考えられた。人が交流するたびにそういうことが起きる。グローバル社会の中で各国で何が起きているのか、把握することが大事だと思います。

-開閉会式の簡素化が検討される予定です。医学的にみて、コロナ対策には有効ですか

基本的に参加する人たちは症状がない人たちなので、口を開かなければマスクは不要ですが、全員マスクをすれば飛散させる可能性がないです。もちろん、人が密にならないようにすれば、感染管理できます。一番大事なのは症状がある人は出ないことです。

-現状で薬やワクチンもないですが、五輪開催のカギとなるコロナ対策は

ひと言でいえば、キーは人です。予防の徹底です。手洗いと正しいアルコール消毒の徹底を。症状がある人は外に出ないようにする。症状がある人は他人にうつさないようにマスクをつけること。人が正しく恐れ、正しく行動できれば、五輪は開催できます。

◆後藤礼司(ごとう・れいじ)1981年(昭56)10月1日、愛知県生まれ。藤田保健衛生大医学部卒。循環器及び感染症の2つの専門分野を持つ。3月まで総合大雄会病院感染症科部長兼循環器内科医長を務め、4月から現職。


■五輪とワクチンをめぐる主な発言

<3月25日:長崎大熱帯医学研究所の森田公一所長(ウイルス学)>

ワクチンのめどが立つというのが、一番安全な方法だ。

<4月17日:英エディンバラ大学デビ・スリダール教授(公衆衛生学)>

(開催は)ワクチン次第。効果的で手頃な価格のワクチンを手にできれば現実的。

<4月28日:日本医師会の横倉義武会長>

有効なワクチンが開発されないと開催は難しいのではないか。

<4月29日:IOCジョン・コーツ調整委員長>

ワクチンの開発には依存しない。

<5月1日:橋本聖子五輪相>

主催者であるIOCや大会組織委員会が、ワクチン開発を大会開催の条件にした事実はない。

<5月20日:政府専門家会議の脇田隆字座長(国立感染症研究所長)>

(ワクチン開発時期は)年を越えると思っている。有効性に加え、安全性の確保が重要で、副作用の有無を見極める必要がある。

<5月22日:IOCコーツ調整委員長>

ワクチンがないか、あっても、世界中で共有するには十分ではないことを想定する必要がある。

<5月25日:安倍晋三首相>

国内外の英知を結集して、治療薬とワクチンの開発を急ぎたい。五輪を開催する上で治療薬ワクチン極めて重要だ。

<6月10日:東京大会組織委森喜朗会長>

ワクチンや新薬全てが整うことが「完全な形」ということではないと安倍総理も考えているだろうし、私もそう受け止めている。

日刊スポーツが2020年東京五輪・パラリンピックに向けて毎週お届けする300回の大型連載です。ここでしか読めないスペシャルな話題満載です。

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