ブラジル代表(FIFAランキング6位)を率いるのはカルロ・アンチェロッティ監督(66)が、就任から6戦目となる日本代表(同19位)戦を14日(午後7時30分、東京・味スタ)に迎える。
欧州チャンピオンズリーグ優勝5度など、言うまでもなく世界を代表する名将の1人。そのアンチェロッティとは何者か?
戦術家というより、個性を束ねるマネージャーの様相が強い。スター選手を共存させることにおいては右に出る者がいない。つまり、彼ほど「サッカー王国」に最適の人物であろう。
スター選手をどう活かすか-。時間を37年ほど前まで戻そう。彼はACミランに所属していた。フリット、ファンバステン、そしてライカールトという個性豊かなオランダ・トリオとプレー。守備戦術「ゾーン・プレス」で新時代をつくった希代の戦術家アリゴ・サッキのもと、機転の利くボランチとしてスター選手を操っていた。
欧州CLを88-89年、89-90年と2連覇。89年12月に行われたインターコンチネンタル杯(トヨタ杯)で来日。アトレティコ・ナシオナルを1-0で下し、世界一に輝いている。筆者は幸いにも国立で「世界最高峰」の戦術を目の当たりにした。コンパクトに仕切ったゾーンでボールを刈り、素早くサイド、前線へボールを流していく。アンチェロッティはスター選手を生かす“黒子”だった。
その後に指導者となり、転機となったのは1998年途中に就任したユベントスだった。世界最高のファンタジスタ、あのジダンとの出会いだ。ボールテクニックに優れ、攻撃に特化した選手。従来のシステムを書き換えトップ下へ。守備面の弱さを補うべくダービッツら「汗かき」を周囲に配置し、自由を与えた。
ジダン・システムはACミランで加速する。ルイ・コスタ、リバウド、シードルフ、ピルロ。従来トップ下だった選手が重なる中、シードルフ、ピルロのポジションを中盤後列に下げ、同時起用した。02-03年に監督としても欧州CL優勝。その後、カカが加わると「クリスマスツリー」と呼ばれた4-3-2-1のシステムを選択し、トップ下を2枚にした。
独力突破を得意としたカカの爆発力がさえ、06-07年に2度目の欧州CL制覇。「守備の国」イタリアではファンタジスタの同時起用はご法度だったが、その考えを根底から覆し「優勝請負人」となった。
その勢いはチェルシー、パリSGを経てRマドリードでさらに開花する。ベンゼマ、ベイル、ロナウドの「BBC」が前線に君臨する中、ディマリアを中盤にコンバートすることで成果を出した。そのキャリアをなぞれば、枚挙にいとまない。傑出したタレントを限定するのでなく、新たな可能性を含ませ最大化させる。ブラジル代表監督に就任するまで、2度目となったRマドリードではビニシウス、ロドリゴ、そしてエムバペが水を得た魚のごとく、前線で躍動した。
「選手より重要なシステムはない」
アンチェロッティがかつて口にした言葉である。システムありきでなく、選手が先にある。現代サッカーではビルドアップに始まり、どういう立ち位置でパスの出口を探り、どこを攻めていくか。データを絡めた戦術が先周りすることが多く、そこに駒となる選手が当てはめられる。それとはどこか一線を画し、人と人をつなげる「人間的な目」や「感性」を大事にする。
13日に東京スタジアムで行われた会見で、アンチェロッティ監督はネイマールの代表復帰について問われると、ためらわずこう回答している。
「コンディションさえよければ全く問題なく今の代表チームに当てはまる」「コンディションさえよければ世界のどのチームにもポジションを得ることができる」
くしくも先の会見でブラジル代表の司令塔となるギマランイスは、アンチェロッティ監督の采配についてこう話していた。
「私は自由を与えれらている、ゲームメーキングの自由を。隣にはカゼミロという勝利を知っている選手がいる、だから自由を与えられている」
形や枠に縛り過ぎず、選手の個性や感性が「崩し」の部分では最も重要なエッセンスになるからこそ。今のブラジルの最前線にはビニシウス、ロドリゴ、エステバンといったファンタジスタたちが並び、即興性を交えた攻撃力が最大の武器となっている。
韓国戦の5-0大勝を受け、母国では「美しいサッカーが戻った」とファンは歓喜している。ただサッカーにおける「美しさ」にはイタリア人らしいリアリスティックな定義がある。
「ブラジル選手の個々のクオリティーは美しいサッカーになる。ただ美しいサッカーというのはそれだけではありません。集団的な動きや決めごとだったり、オフザボールでも美しいサッカーができる。そういう理解をする必要がある」
美しさの根幹には堅い守備という土壌がある。だからこそ、その上に彩り鮮やかな花が開く。根底に流れる「1-0(ウノゼロ)」イタリアサッカーの血、そしてビッグクラブでつかんだスター共存の在り方。
あらためて言おう。アンチェロッティほど、ブラジル代表がふさわしい監督はいない。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)
◆カルロ・アンチェロッティ 1959年6月10日、イタリア・レッジョーロ生まれ。現役時代はMFとしてローマ、ACミランなどに所属。イタリア代表26試合1得点、W杯は86年、90年に出場。92年に引退し、サッキ監督のもとでイタリア代表コーチを3年務める。95年にレジーナで監督デビュー。パルマ、ユベントス、ACミラン、チェルシー、パリSG、Rマドリード、Bミュンヘン、ナポリ、エバートンでも指揮。欧州CL5度制覇、プレミア、セリエA、スペイン、ブンデス、フランスの5大リーグも制している。Rマドリードだけで15個のタイトルを獲得する。








