10年から3シーズン、元サッカー日本代表FWの中山雅史(52)が、コンサドーレ札幌に在籍した。熱いプレーだけでなく“ゴン節”と呼ばれた絶妙かつ軽快な切り返しと独特の表現は、北の大地でも存在感を放った。現在はサッカー解説者をしながら、J3沼津で現役選手としても活躍中。札幌在籍中に取材した担当記者が取材メモ、記憶などを元に、その語録からストライカーの素顔に迫った。

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とにかく頭の回転が速い。ある日の練習後、札幌・宮の沢のプレスルームに突然、ゴン中山があらわれた。「ちょっと場所借りるよ」。何が始まるかと思いきや、カメラを構えた広報スタッフの前で、5分程度のビデオメッセージの撮影を始めた。10秒考えた後「結婚に大事なのは金!」と始まり、取り囲む報道陣の笑いを誘った。リハーサルなしに、ひと言もかまずに1発OKとなった。

「ヤマハでお世話になった上司の娘さんが結婚するんだよね。4回ぐらいオチ、入ってたでしょ」。そう言い残して去った。その通り4、5回の笑い所があった。巧みな話術は札幌に来る前から有名だったが、台本なしでマシンガンのように畳み掛けるのを目の当たりにし、衝撃を受けた。札幌での現役引退発表後、人気お笑いコンビ、アンタッチャブル山崎弘也(44)とレギュラー番組を持ち、プロの芸人と普通に渡り合う姿も当然、うなずけた。

10年7月24日、翌日にカズこと三浦知良の横浜FCとの“レジェンド対決”を控えた札幌ドームでの練習後のこと。地下の自販機前で飲み物を買おうとしていたので、記者は、かつてカズがCM出演していた炭酸入りの清涼飲料水を勧めてみた。「これを飲んだら明日、カズさんに勝てるのでは」と。すると「それ飲んだら…俺がカズさんに飲まれちゃうでしょ」と、さらりと言って紅茶を買って去って行った。何げなく出した記者の“パス”にも的確に反応。爆笑を取るだけでなく、ベテラン落語家のような小粋な“シュート”で会話を着地させるシーンも、見せてもらった。

11年9月23日、44歳の誕生日に報道陣からプレゼントを贈った。自宅から練習場まで自転車で通っていたこともあり、その際に日差しがまぶしくないようにとサングラスを選んだ。44歳の心境を尋ねるとサングラスを頭に乗せ「獅子(44)奮迅といきたいよね」と、両手の指を4本、びしっと伸ばし、顔の前でクロス。その瞬間をカメラがパチリ。サッカー同様、周囲が求める動きを瞬時に察する能力は、ピカ一だった。

札幌に来る前は雲の上の存在と思っていた。取材のたびに報道陣の質問を、ひとひねりして応じてくれるのが楽しく、何度も記事にした。毎年末、静岡の父儀助さんの農園から段ボール入りのミカンが届く。そのさわやかな香りをかぐたび、当時を思い出す。3月には現役選手で初めて、Jリーグ監督ができるS級ライセンスを取得。心をわしづかみにする天才的話術と表現力で、指導者として活躍する姿も、見てみたい。【永野高輔】

<中山の札幌時代>

◆09年12月24日 札幌市内のホテルでクリスマスイブ加入会見。当時42歳も、石崎監督に「若手の1人。育ててほしい」と懇願

◆10年1月17日 キックオフイベントで金髪カツラに仮面をつけて登場

◆10年3月7日 J2開幕鳥栖戦に後半途中出場し札幌デビュー

◆10年7月25日 横浜FC戦でカズと移籍後初対決。自身は後半途中出場も、カズは出場せず1-2で敗戦

◆11年4月1日 日本ハム稲葉と震災応援メッセージを撮影。日本ハムと札幌の初コラボ企画実現

◆11年9月28日 古傷の両膝を痛め、29日から両膝関節炎で別メニューになる

◆12年11月20日 全体メニューに完全合流

◆12年11月24日 ホーム最終横浜戦で2シーズンぶりにベンチ入りし、後半残り1分出場。これが札幌での最後のプレーとなる

◆12年12月4日 札幌市内のホテルで引退会見し「まだ未練タラタラ。カムバックするかもしれない」と意表を突く再起宣言。実際に15年からJ3沼津に加入し、今季で6季目。