お家芸にまさかのほころびが出た。20年東京五輪で金メダルを狙う男子400メートルリレー日本代表は失格で予選落ち。第3走者の小池祐貴(23=住友電工)からアンカーの桐生祥秀(23=日本生命)へのバトンパスで2人の手が接触し、バトンをジャッグルする形となった。3着でフィニッシュラインを越え、タイムは全体9番目の38秒59。決勝進出は逃すも、10位以内に与えられる今秋の世界選手権(ドーハ)の切符は得たかに思われたが、レース後、バトンを手渡ししていないとされ、反則となった。

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独走に勝利を確信するような1万4000人の歓声がスタジアムを覆う中、落とし穴があった。それはトップで快走する小池から桐生にバトンが渡る時。桐生が前へ進むタイミングでわずかに前へ体勢が崩れた。後ろに差し出した桐生の左手は、バトンを手にする小池の右手に重なる形で接触。1度、すれ違った呼吸は修正できず、バトンは宙に浮いた。ジャッグルしながら、バトンを何とか手にした桐生は激走し、3着を死守した。ただ、レース後、競技規則「バトンは競技中手で持ち運ばなければならない」に反するとの判定が下されて失格。今大会での世界選手権の出場権も逃した。

桐生は「結果的にバトンミスをして次に残れなかった」と責任を背負ったが、体勢を崩したのはわずか。大勢には影響はなく、バトンはつながるはずだった。

負の連鎖の始まりは第2走者の山県から小池への受け渡し。やや詰まった影響で、小池はバトンを本来の根元でなく、真ん中で持っていた。このため小池の右手は桐生の左手と重なり、悲劇の引き金を引いた。小池は「受けも渡しも、不測の事態に対応が遅れた」とうなだれた。今回は第1走者が定位置の山県が第2走者、第3走者で力を発揮していた桐生がアンカーの新走順も裏目に。緻密さが凝縮された日本のバトンパス。それゆえ小さなミスが重なれば、亀裂は大きくなった。今後、世界選手権の切符を得るには、9月6日までの記録上位によるランキングに入る必要がある。

もう1度、足元を見つめ、再出発するしかない。リオ五輪で銀メダルを獲得した後、その1年後でも世界選手権は銅メダル。だが、実際はゴール直前で前を走っていたジャマイカのボルトが足を痛めたもの。事実上は4位だった。適度な自信は必要でも、過信は足をすくわれる。桐生は「リオも失敗しなかったので、バトンは失敗しないだろうという緩みも少しあったと思う。バトンは集中しないとミスをするとあらためて思った」。最大の目標である東京五輪で結果を出せば、この負けも大きな価値を含んでくる。【上田悠太】