陸上の世界選手権東京大会(9月13~21日、国立競技場)開幕まで13日で1カ月となった。今季は男子100メートルで好記録が連発。2度目の9秒台となる9秒99を出した桐生祥秀(29=日本生命)ら、わずか9日間で3人が参加標準記録(10秒00)を突破した。

それをアシストしているのが、21年東京五輪以降に主流となった短距離用の厚底スパイク。アシックスで開発に携わる大竹博道氏が、導入した経緯や従来のスパイクとの違いなどを語った。【取材・構成=藤塚大輔】

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男子100メートルで記録ラッシュが続いている。7月26日に石川・星稜高2年の清水空跳(そらと)がU18世界新の10秒00をマーク。わずか8日後の8月3日には桐生が9秒99、大東大4年の守祐陽(もり・ゆうひ)が10秒00を出した。3人が着用していたのは、いずれも厚底スパイクだった。

日本で普及するきっかけとなったのは、21年東京五輪男子100メートル金メダルのヤコブス(イタリア)。大会前の自己記録は日本記録と同じ9秒95だったが、決勝は9秒80で駆け抜けた。履いていたのはナイキの厚底スパイクだった。

当時、国内で厚底を展開していたのは同社とプーマのみ。日本勢は従来の薄いスパイクだった。大竹氏は「選手のパフォーマンスに大きく貢献していて衝撃を受けた」と振り返る。アシックスでは同年秋から開発がスタート。各社が採用を始めた。

厚底スパイクは、クッションに内蔵したカーボンプレートの跳ね返りで強い反発を得る。「従来はスパイクのしなりで反発を生んでいたが、厚底はさらに縦方向への沈み込みの反発が組み合わさる。感覚のズレがある分、履きこなすには時間がかかる」。当初は多くの日本選手から「地面との接地時間が長く感じる点が不安」という声が上がった。

そこで同社は、あえて反発力の低減に着手。「足の真下にプレートを配置することで沈みを小さくした」という。世界陸連は短距離用の厚みを最大20ミリと規定。アシックスの厚底には19・5ミリのものもあり、ミリ以下の単位で性能を追求する。

そうした改良に選手たちも適応。アシックスのスパイクを履く桐生は、昨秋から本格的に厚底への順化を試みた。私生活から厚みのあるシューズやスリッパを10足ほど試し「自分の感覚を裏切ってでも慣れようとした」。レースでも「足を高く上げると反発を受け過ぎる。下に踏み過ぎるとタイミングが長くなる」と厚底に適応するために走り方を微調整して、好タイムに結びつけた。

長距離用の厚底シューズに続いて、今や短距離でも厚底スパイクが国内外で主流となった。昨夏のパリ五輪決勝、今年7月の日本選手権決勝では全選手が厚底を着用した。「今夏の全国高校総体でもほとんどが履いていた」と大竹氏。もちろん、各選手の技術向上や練習法のアップデートなども記録向上の大きな要因だろうが、背景に進化するスパイクの存在があるのも確か。

1カ月後の世界選手権では、驚愕(きょうがく)のタイムが見られるかもしれない。

◆長距離用の厚底シューズ 短距離用に先駆けて、普及した。反発力が高く、足への衝撃が少ないなどの特徴がある。17年にナイキが発売を開始。18年には厚底を着用した設楽悠太が男子マラソンで16年ぶりに日本記録を更新する2時間6分11秒をたたき出した。現在は同日本歴代14位までが、18年以降に記録されたもの。世界陸連は底の厚さを最大40ミリと規定している。

◆男子100メートル代表争いの現状 出場枠は最大3。現時点で1番手から桐生、守、サニブラウンの順となっている。他の選手にも8月24日までチャンスがあり、7月の日本選手権で2~6位の選手は10秒00、それ以外は9秒96を出せば、代表入りの可能性がある。