世界各地の名所を舞台にした高飛び込みのワールドシリーズ「レッドブル・クリフダイビング・ワールドシリーズ」第4戦。舞台に選ばれたのは、宮崎県の「高千穂峡」だった。

世界各地の名所を舞台にした高飛び込みのワールドシリーズ「レッドブル・クリフダイビング・ワールドシリーズ」第4戦の舞台、宮崎県の高千穂峡
世界各地の名所を舞台にした高飛び込みのワールドシリーズ「レッドブル・クリフダイビング・ワールドシリーズ」第4戦の舞台、宮崎県の高千穂峡

国の名勝天然記念物にも指定されている高千穂峡。「真名井の滝」など神秘的な絶景スポットとしても人気の高い観光地だ。

今大会には、14カ国から男女合わせて24人が参戦。選手たちは試合の前日に高千穂神社を参拝し、ご祈祷(きとう)やお清めをした上で練習を開始した。

初めて日本でクリフダイビング(ハイダイビング)の試合が開催されたのは2016年。白浜の断崖絶壁「三段壁」だった。

私は、ビルの9階相当の27mという未知の世界をひと目見ようとワクワクしながら会場へと足を運んだ。

クリフダイビングの選手たちの多くは元飛び込み選手。私も10mを得意とする飛び込み選手だったが、同類の競技と言えどもやってみたいとは全く思わなかった。正直、試合観戦をしているというより、超人たちのダイビングショーを見ているという表現の方が正しいかもしれない。

あまりの異次元な世界に、このさき日本人選手が誕生することすら想像ができなかった。

それほどまでに過酷な競技なのだ。

しかし、、、、

「あの崖から飛んでみたい!」

日本でただ1人そう思った人物がいた。荒田恭兵(27)だ。

当時は、まだ日本では誰もやったことのない競技。好奇心旺盛の荒田にとっては、そこもまた魅力の1つだった。そこからは、どうしたらクリフダイビングの選手として活動できるかを模索する日々が始まった。問題はそれだけではなかった。練習場所も探さなくてはいけない。もちろん人工的なプールはなく、練習するとなれば自然の中。一歩間違えば取り返しのつかない競技なだけに、なかなか思うように話は進まなかった。しかし、それでも諦めずに何度も海外へと足を運んだ。ようやく選手として認められたのは2018年。日本人選手第1号として前人未到の世界へと足を踏み入れた。

「いつか世界の舞台に立ちたい」

その思いを胸に、飛べそうな岩壁を見つけては練習を重ねた。

会場の高千穂峡で命綱をつけて断がい絶壁に立つジャッジ
会場の高千穂峡で命綱をつけて断がい絶壁に立つジャッジ

ハイダイビングの魅力に取りつかれた白浜大会から7年。長年の努力が身を結び、目標としていた舞台への挑戦が現実のものとなった。本来であれば、今の荒田のレベルでは参加は難しい。しかし今回は特別参加枠での参加が認められた。そんなラッキーもあったが、荒田は他の選手たちに劣らない難易度の高い技を披露。観客やライバルたちからも大きな拍手が送られた。

しかしながら、結果は最下位。トップとの差は歴然だった。まだまだ世界の壁は厚いことを痛感させられた。

それでも荒田の表情はとても充実していた。第一人者という定めもあり、まだ目の前にはたくさんの困難が立ちはだかっている。自分のやりたいことを貫くことは簡単なことではない。それでも高みを目指す姿はとてもたくましく思えた。

今回の観戦で改めて感じたことは、やはり安易な気持ちで臨める競技ではないということ。

男子は27m、女子は20mから飛びこむ際の最高速度はおよそ100km。空中感覚や入水感覚に優れたベテランダイバーでさえ、一瞬の判断ミスで大けがにつながってしまうのだ。

試合後に飛び込み台の先端に行ってみたが、あまりの恐怖で足がすくんだ。腰が引けて思うように身動きがとれなくなった。ここから飛ぶなんて絶対に無理だと思った。選手たちはいとも簡単に飛び込んでいるように見えるが、勘違いしてはいけない。ここは超人の集まりなのである。

しかし、誰にでも成し得ることでないからこそ引きつけられるものがある。空中へ舞った選手が大自然と一体化する瞬間はまさに芸術だ。

今年のワールドシリーズは残り2戦。壮大な大自然へ挑戦する選手たちを最後まで見守りたいと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)

世界各地の名所を舞台にした高飛び込みのワールドシリーズ「レッドブル・クリフダイビング・ワールドシリーズ」第4戦に出場した荒田恭兵(左)と筆者
世界各地の名所を舞台にした高飛び込みのワールドシリーズ「レッドブル・クリフダイビング・ワールドシリーズ」第4戦に出場した荒田恭兵(左)と筆者