ワークショップ「STEAM ベースボール」が1月19日、茨城・東洋大牛久高の硬式野球部で行われました。経済産業省「未来の教室」の実証事業として、株式会社STEAM Sports Laboratoryが監修。部員らはプロ野球のデータ活用事例を学び、自チームのデータを使って打順や戦略を考えました。

データ分析で

「フライボール革命」や「オープナー」など、大リーグを筆頭にプロ野球は、データ全盛の時代。東洋大牛久の野球部員38人が、最新のデータ活用事情を学んだ。プロ野球のデータ分析を行うデータスタジアム株式会社の山田隼哉氏が「野球におけるデータ活用」について話した。

「野球におけるデータ活用」について話すデータスタジアムの山田氏(左)
「野球におけるデータ活用」について話すデータスタジアムの山田氏(左)

定説の「ノーアウト満塁は点が入らない」「代わったポジションに打球が飛ぶ」「左打者は左投手が苦手」などは、プロ野球の公式戦データで見ると、必ずしも正しくない。山田氏は「データを見ないと、間違った認識や判断を招いてしまう可能性がある」と話し「データが選手のプレーやチームの戦術を変える」と続けた。

データで、打球の種類(ゴロ、フライ、ライナー)ごとの打率と長打率を見ると、ゴロよりもフライの打球の方が良い結果につながりやすいことが分かる。意識的にフライを打ち上げたり、そのための練習を行う選手が増えて「フライボール革命」が起こった。

戦術を考える

また、イニングごとの平均得点、対戦回数ごとの打率と長打率を見ると、<1>初回は投手がもっとも失点しやすい<2>対戦回数が増えるほど打者にとって有利になることが分かる。全力投球が可能な救援投手を初回に登板させ、先発投手の負担を減らす起用法「オープナー」が誕生した。

データ活用の有効性を学んだ部員たちは、練習試合などのスコアブックを使って自分たちの分析を行った。スタメンと打順を仮定して、シミュレーションソフトで得点力を検証。選手や打順を替えながら、最適な打順を考えた。さらに、高い得点力になった打順を発表。「1、2番に打率がいい人をおくと出塁率が高くなった」など、なぜ点をとれるようになったかの理由も話した。

試行錯誤大切

ワークショップについて説明する東洋大牛久高硬式野球部の矢野監督
ワークショップについて説明する東洋大牛久高硬式野球部の矢野監督

元ヤクルト投手の矢野和哉監督は「普段からオーダーや練習方法を選手たちに考えさせています。データを取り入れることで、説得力があるものに変わっていくはず」。先月になくなった野村克也氏(享年84)のID野球の影響を受けただけに、データ活用に期待を寄せた。唯根賢人主将(2年)は「データを使って打順を考えるのが楽しかった。感覚では気づかない課題がデータで見えてきた。やるべきことはたくさんあるけど目標の甲子園出場に向けて頑張りたい」と手応えをつかんだ様子だった。

積極的な野球部員たちに数学者の中島氏(中央)は笑顔を見せる
積極的な野球部員たちに数学者の中島氏(中央)は笑顔を見せる

ジャズピアニスト・数学者の中島さち子氏は「継続してデータをとり続けて試合にいかしてください」。中央大理工学部数学科の酒折文武准教授は「データはあくまでもヒント。見たからといって打率が上がるわけではありません。どう活用するのか試行錯誤することが大切」。山田氏は「ソフトなど便利なものを活用しながら、データから何が得られるのか読み解く。仮説をいっぱい考えて実践してほしい」などと、エールを送っていた。

◆株式会社STEAM Sports Laboratory 2018年11月設立。山羽教文代表取締役。本社は東京都港区南青山。子どもたちの「主体的・対話的かつ深い学び」を引き出すために、スポーツシーンにおける問題・課題を教材にした「新たな学びの場」の創出を目指している。