毎週日曜日掲載の「スポーツ×プログラミング教育」。前回まで3回にわたり、データ分析で部活動のバスケットボールや野球の戦略を考えるワークショップを紹介しました。今回は、その講師を務めた中央大理工学部数学科の酒折文武准教授が登場。スポーツ統計科学を研究する同氏に、データ全盛のスポーツ界での取り組みや、部活動とSTEAMの可能性について聞きました。【聞き手=豊本亘】

中央大理工学部数学科の酒折准教授
中央大理工学部数学科の酒折准教授

もともと観戦大好き

-研究はスポーツ統計科学などが専門

もともとスポーツ観戦が好きで。立大社会学部助手の時代に、山口和範先生とともに野球の分析に関わったのがきっかけです。当時はトラッキングシステム(運動時のデータを集約する計測システム)はなく、1球ごとのデータでしたが、今まで分からなかったことが見えてきて、これは面白いと。専門は統計的モデリング、統計的機械学習。最近はスポーツ統計科学に軸足を置いています。

ダル「中4日限界説」

酒折准教授は17年に、大リーグのデータを使って投手の肘損傷の要因を分析
酒折准教授は17年に、大リーグのデータを使って投手の肘損傷の要因を分析

-どんなスポーツを研究している

野球が多いです。2017年には、大リーグの全試合の投球に関するデータを使って、投手の肘の損傷の要因を科学的に分析しました。例えば、1試合の投球数と登板間隔のどちらがリスクが高いのか。14年にダルビッシュ有投手が「中4日限界説」を唱えて話題にもなりました。長いイニングを投げる先発投手の場合、大リーグでは1試合100球で中4日、日本だと120~130球で中6日が主流です。結果は、大リーグのデータの範囲では1試合の球数や速球の割合が多いほどリスクが高いことが分かりました。登板間隔は重要な要因ではありませんでした。

サッカー&ラグビーW杯でも活用

-ほかスポーツ界におけるデータ活用について

18年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会では、試合中の選手やボールの動きをリアルタイムで分析できるタブレット端末を提供し、監督らはデータをもとに采配できるようになりました。昨年のラグビーW杯では、日本代表は練習時、小型無人機ドローンが上空から撮影した映像を細かく分析。現場ですぐに確認できるようにして、スクラムなどの精度を高めました。

18年膳所高センバツ

-部活動にデータ分析を取り入れたらどうなるか

スポーツはデータがとれるものが多いので、パフォーマンスの分析を自分たちでやるぐらいの気持ちで取り組めば、向上していくと思います。

それに、選手ではなく、データ分析に特化して部に貢献できる部員がでてくるかもしれない。18年の膳所高(滋賀)は野球経験がない部員が「データ班」をつくり、59年ぶりにセンバツ出場を果たしました。

また、18年にスポーツ庁が発表した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」で、部活の週休2日制は浸透しています。データを活用することで、もっと効率的にできると思います。

目の色変わった1月

-データ分析は難しいと思う人もいる

スポーツは数字や数学のハードルを下げるツールになると思います。1月のワークショップでもそうでしたが、自分たちのデータを分析するとなると目の色が変わったじゃないですか。スポーツを通じて数字になじみ、割合やデータ分析、比較する意味で分かる。具体的な目標が定めやすくなり、どこを努力すればいいかも理解できる。スポーツをもっと楽しめたり、上のレベルでプレーできるようになるはずですし、数学も分かるようになる、そんな相乗効果が絶対にあるはずです。そうなっていくといいなと思います。

◆酒折文武(さかおり・ふみたけ)中央大学理工学部数学科准教授、博士(理学)。専門は統計的モデリング、計算機統計学、スポーツ統計科学、統計教育。立教大学社会学部助手、中央大学理工学部専任講師などを経て、09年より現職。17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞。