ラグビー界のメッシ!? クリスティアーノ・ロナウド!? 今月14日、元ニュージーランド代表で、7月に神戸製鋼と2年契約を結んだSOダン・カーター(36)のトップリーグデビュー戦を取材した。「オールブラックス」112キャップを誇り、世界最優秀選手に3度輝いたスーパースターのプレーを見ようと、会場の秩父宮ラグビー場は、超満員。カーターがボールを持つ度に歓声が沸く、お祭り騒ぎとなった。

試合は、自らトライも奪い、21得点。司令塔としてチームを勝利に導いたプレーはさすがの一言だったが、その魅力はピッチの上だけではなかった。翌日に都内で行われたトークイベントにゲストとして登場。頂点を極めた自身のキャリアを振り返った。

特に印象的だったのは、国を代表してプレーする心構えについてだ。ニュージーランド代表では、初キャップのタイミングで一冊の本を受け取るという。本の前半部分はオールブラックスの成功の歴史などが記されており、そのジャージーを着てプレーする意味を学ぶ。国中の期待を背負うオールブラックスとして戦うことは、カーターにとっても常に特別なものだった。

カーター 誰もが死ぬまでオールブラックスとしてプレーしたいが、それは不可能。初めてジャージーをもらった時に考えるのは、自分が代表を去る時に、オールブラックスを守れたかどうか。もらったジャージーにいかに価値、誇りを加えられるかが重要なんだ

本の後半部分は白紙になっており、それぞれの選手が自由に使い方を考える。11、15年と2度のW杯優勝を経験した36歳は、心の整理のために使っていたと明かした。

カーター 落書きをしたりする選手もいるが、私はキャプテンズラン(試合前日練習)の日の芝を、その本のページに入れていた。そして、自分がその試合で何をしたいのか、何にフォーカスするのかを2、3個書いていたんだ

03年に初キャップを獲得したカーターは、司令塔として10年以上も代表でプレー。W杯優勝3回、テストマッチの通算勝率が80%に迫る常勝軍団の強さについても触れた。

カーター 大切なのは誰1人、チームより大きな存在はいないということ。オールブラックスは、試合後のロッカールームを全員で掃除する。そして、実際にほうきを持っているのが(主将として3度W杯出場の)リッチー・マコウだったり、コーチだったりする。全員が現在地を把握できているか。その教育がオールブラックスにはあるんだ

カーターは、ニュージーランド協会のスティーブ・チューCEOとの会食した際に、突然同氏から足を蹴られたエピソードも披露した。理由を尋ねると、チュー氏は「君の足がちゃんと地に着いているかを確認したんだ」と応えたという。

濃密な1時間。司会者がイベントの終わりを告げると、それまでの言葉を裏付けるような光景を目にした。会場スタッフが写真撮影の準備に入ろうとした時、カーターは座っていたいすを自ら持ち、ステージの外に運び出したのだ。関係者もファンも驚いたが、本人は事もなげ。俳優のような見た目も含め、「スター」たるゆえんを、これでもかと見せつけられた。

デビュー戦の試合後、試合に敗れたサントリーの沢木監督は言った。「素晴らしい教科書が日本に来た。ちびっ子だけではなく、全員の見本になる」-。19年W杯開幕まで1年。日本にいる英雄から学ぶことは多そうだ。【奥山将志】


ダン・カーター

▼生まれ 1982年3月5日、ニュージーランド・リーストン出身

▼経歴 クライストチャーチボーイズ高を卒業し、03年にスーパーラグビーのクルセーダーズでデビュー。同年、ニュージーランド代表に初選出され、15年のW杯連覇に貢献。通算112キャップ

▼偉業 国際統括団体ワールドラグビー(旧IRB)の年間最優秀選手に3度選出された。テストマッチ1598得点は個人世界歴代最多記録

▼アピールポイント 精度の高いキック。周囲を統率しながらのゲームメーク

▼日本食 大好物はすし。ニュージーランドの栄養士には「『納豆を食べなさい』と言われています。食べたことはあるけれど…。好きになれるように、たくさん食べます(笑い)」

▼尊敬する人 マイケル・ジョーダン

▼ラグビー以外の好きなスポーツ クリケット

▼足のサイズ 30センチ

▼身長、体重 178センチ、96キロ


(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)