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本田望結だから…「女優一本」よりスケートと両立

フィギュアスケートと女優業。2本の張り詰めた糸のうち、1本が切れてしまったような気がしていた。

全大阪選手権の演技後に笑顔を見せる本田望結(撮影・松本航)
全大阪選手権の演技後に笑顔を見せる本田望結(撮影・松本航)

19年11月4日、滋賀県立アイスアリーナ。本田望結(15=大阪・関大中)はフリーの演技後、ひどく落ち込んだ表情を見せていた。西日本選手権のジュニア女子で17位。3年連続出場を目指していた全日本ジュニア選手権の切符を逃した。

現地で取材をしながら、勝手に「女優に専念するんじゃないか」と想像した。20年春からは高校生。節目のタイミングともいえた。

あれから約3カ月半-。年が明け、2月24日に大阪市内で全大阪選手権が行われた。本田はジュニア選手権女子7級で優勝。課題に向き合いながら演技し、小さな大会を終えた。充実した表情に安心し「西日本の後、気持ちは切れなかったんですか?」と最も気になっていた点を尋ねた。返事は丁寧で、具体的だった。

「今だから言えるんですが、元々は高校生が終わるタイミングか、高校生の途中で『東京に行こう』と思っていました。女優として、高校生の役ができる時期は、とても大事なんです」

ここでの「東京行き」は、女優一本に絞ることを意味する。だが、悔しさの残るシーズンを過ごして、その考えは変わっていった。

「でも…。大学4年生までスケートも頑張って、お芝居も頑張るって決めました。1つのことは他の人でもできる。2つのことをしていなかったら『本田望結じゃない』と思いました」

失意の西日本選手権後、気持ちを立て直すことに苦労した。救ってくれたのは女優としての仕事だった。

「スケートのことを忘れられる時間がありました。お芝居もすごく楽しい。だから『もっと女優さんとしてもすごい人になりたい』とあらためて思いました」

直近の2シーズンは女優業を減らし、スケートの練習時間を意識的に確保してきた。その環境は気付かぬうちに「甘え」を生んだ。

「自分は小さい時から忙しいのが当たり前でした。新幹線に乗って帰ってきて、リンクに行く。『10分間だったけれど、ちゃんと練習できた』という達成感で毎日頑張れていた。お仕事で疲れても、それはスケートに関係ない」

わずか30分の練習に集中していたが、それが3時間に増えれば…。「3時間になると『最近頑張っているから…』と緩くなってしまう。それで、大学まで『両方を頑張りたい!』と思うようになりました」。

ドラマ「家政婦のミタ」に出演し、大きく知名度を上げたのは7歳の時だった。多くの視線を自然と集める立場。自分が選んだ生き方にも、さまざまな意見があることを知っている。

「スケートをやっている人からしたら、私は中途半端。『それでやっていると言えるのか』と思う人もいる。お芝居をしているけれど、私より(スケートの)表現がうまい方はたくさんいらっしゃる。『どんなスケーターになりたいか』っていうのは難しい。話すと明日の朝までかかります」

そう笑って、ぼんやりとした理想像を言葉にした。

「悔しいけれど私がどれだけ頑張っても、スケート一本の人に『50%、50%』ではかなわない。それは承知の上で、私にしかできないことをしたいです。アイスショーで照明に当たって演技をすると『望結ちゃんにしかないものがある』と言ってもらえるんです」

競技においても、ショーのように「お客さんと楽しむ試合を作り上げたい」と言う。

「素晴らしい表現に、ジャンプが加わる。『望結ちゃんの表現を見に来た』と言ってもらえるぐらいのものを、身につけたい。そうなるように、むちゃくちゃ頑張ったら…。いつかはジャパンジャージーを着て、国際大会に行くのが、夢じゃなくなるかもしれない」

わずか1週間ほど前、浜田美栄コーチらのチームを巣立ち、新たに本田武史コーチに師事した。本田コーチには米国でも練習する姉の真凜(18)と妹の紗来(12)、兄の太一(21)がすでに指導を受けてきた。

チームを変更した最大の理由は、幼少期から「ライバル」と考えてきたきょうだいとの切磋琢磨(せっさたくま)だという。新旧のコーチへ、感謝の思いは尽きない。4人で最後まで環境を変えなかった理由も、本田の強い意志だった。

「『去年から(きょうだいと一緒に)変われば良かったじゃん』と思われるけれど、その時は移りたいという気持ちはありませんでした。『私はここでやる』と決めて、やってきた。今シーズンの経験も無駄にはならないと思う。チームが変わったのも自分の意思。初めてのことが毎日ある環境で、また頑張ります!」

フィギュアスケートと女優業。選んだのは、2本の糸をさらに強くする道だった。身長160センチに達した15歳の瞳は、キラキラと輝いている。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月から西日本の五輪競技やラグビーを担当し、平昌五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを中心に取材。

全大阪選手権の演技前に笑顔を見せる本田望結(左)と本田武史コーチ(撮影・松本航)
全大阪選手権の演技前に笑顔を見せる本田望結(左)と本田武史コーチ(撮影・松本航)

スポーツをこよなく愛する日刊スポーツの記者が、スポーツの醍醐味、勝負の厳しさ、時には心が和むようなエピソードなど、さまざまな話題を届けます。

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