人の行き交う姿やアナウンスはほとんどない。1月31日の成田空港。閑散というより静まり返った中で、決意を胸にした男がいた。「行ってきます! また一歩夢に近づけるよう1日1日ファイトして、チャンスを掴みとってきます」。ツイッターにこう記して、機上の人となった。

決意を新たに渡米した李卓(本人提供)
決意を新たに渡米した李卓(本人提供)

その航空機の乗員となっていたかもしれなかった。あこがれだったパイロットの夢を中断し、もう1つのあこがれのNFLを目指す。XリーグのオービックRB李卓(り・たく、25)の旅立ちだった。

昨年末にNFLインターナショナル・プレーヤー・パスウェー・プログラム候補に選ばれた。17年から北米以外の選手にチャンスを与えるために始まった。プログラムに入れば練習生資格を得る。チームで認められれば、ロースター入り=NFL選手の夢がかなう。

愛知・南山中での体験入部がフットボールとの出会い。QBをやりたかったが、翌日のフラッグでジャンケンに負けてRBも、顧問にほめられて入部。高2の選抜チームで米国遠征もRBでは試合に出られず。これに奮起し、関西の強豪大に誘われるまでに成長した。

強豪を倒して日本一になりたいと慶大を選んだ。在日韓国人4世で日本代表を目指して日本国籍を取得し、3年で学生唯一の日本代表入り。3、4年と関東NO・1ラッシャー。主将としてチームを率いたが、66年ぶりの甲子園ボウルは出場目前で敗れた。

卒業後はオービックに入団も1年半後に決断をした。パイロットにあこがれていたが、空港でその姿を見て目標になった。慶大3年の春には日本航空パイロット訓練生に内定していた。

地上勤務2年間限定で現役のつもりだった。二兎(にと)を追いながら迷いがあった。転職組の年上の同期が「まだ若い。もう1度挑戦できる」と背中を押してくれた。「後悔したくない」と18年秋に退社し、選手専念という大きな決断をした。

田中将大投手のMLBから楽天復帰が話題となった。MLBの日本人選手は野茂英雄をきっかけに61人がデビューした。NBAは3人、NHLは1人。米国の4大メジャースポーツで、NFLだけはいまだ1人もいない。

下部リーグNFL欧州という道筋があったが、07年で解散となった。李は昨春にカナディアン・フットボール・リーグ(CFL)のグローバル・コンバインに招待された。CFLは国際化を図り、各チームに北米以外の選手枠がある。NFLに出身者も多いが、それもコロナで中止となってしまった。

今回のプログラムは今やNFLへ唯一とも言える道も「やっとスタートできる」と1歩目に過ぎない。今回は欧州など9カ国11人が候補。攻守ラインが中心の中で、李はRBで唯一選ばれた。昨季は初の日本一にも輝き、まさに日本のトップとして挑む。

現在はフロリダにあるIMGアカデミーでトレーニングを積む。4月中旬まで10週間でフィジカル、スキルを高めながら4人の練習生枠を争う。「今回が最後の年と思っている」と、まさに正念場の挑戦に日々汗を流している。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

ライスボウル関学大戦で突進するオービックRB李卓(2021年1月3日撮影)
ライスボウル関学大戦で突進するオービックRB李卓(2021年1月3日撮影)