大坂が泣いた。全米オープンで日本人初の4大大会優勝を遂げた世界7位の大坂なおみ(20=日清食品)の快進撃が10連勝で止まった。同8位で元世界女王のカロリナ・プリスコバ(チェコ)に4-6、4-6のストレートで敗退。それでも年間ポイント上位8人による最終戦WTAファイナルズ(10月21日開幕、シンガポール)の出場権争いで3位に上昇した。

表彰式の声は震え、今にも消え入りそうだった。大坂の目には涙が浮かんでいた。疲れ果てていたが、地元日本で、どうしても勝ちたかった。かなわなかった悔しさが、思わず涙に変わった。「来てくれてありがとう」。英語で観客にメッセージを送ると、今度は日本語で「来年、頑張って」と声を振り絞った。

1時間4分であっけなく敗れた。第1セットの第5ゲーム、今大会初のダブルフォールトでリズムを崩し、さらにバックショットが乱れてブレークを許した。「凡ミスが多すぎた」。相手のちょうど倍、26本の「凡ミス」を数えた。体が疲れたことで心も我慢できず、無理打ちが増えた。ただ激闘の27日間を乗り越え、準優勝した自分を「誇りに思う」と話した。

8月28日の全米1回戦から走り続けてきた。9月8日に全米優勝を果たすと、テニス人生は激変した。テレビやイベントに引っ張りだことなり、休む暇などなかった。「今までにないほど疲れた」。27日目となった試合後、人生最大の疲労感に襲われた。

4大大会初優勝を飾った女子選手で、次戦も決勝に進んだのは12年のアザレンカ(ベラルーシ)が最後だ。その後、6年間で8人の初優勝者が出ているが、次戦は8強が最高。大半が1回勝つのがやっとだった。それだけ4大大会の初優勝はすべての点でエネルギーを消費する。加えて大坂の次戦は母国の日本で、期待はいやが上にも高まった。バイン・コーチやスタッフは2回戦と3回戦の間の休みを利用し、大坂を都心に連れ出した。買い物や観光で気晴らしを図った。それでも心身とも限界だった。

セリーナを破って20歳での4大大会初優勝は、鮮烈な衝撃を与えた。好き嫌いにかかわらず、大坂は自らが世界を揺るがした渦にのみ込まれた。ただ歴代の女王は誰もがそれを経験している。これを乗り越えた者が真の世界の頂点に立つ。大坂こそが、その資格を持っている。【吉松忠弘】